2003年6号

国際シンポジウム 「気候変動に関する将来の持続可能な国際的枠組みのあり方」 議事概要


 平成15年9月19日(金)10時から、灘尾ホールにおいて、各国の専門家を招き、長期的な気候変動問題への取り組みのあり方を議論する標記国際シンポジウムを開催した。

 聴講者は、電力、ガス、鉄鋼、石油等の産業界からの93名をはじめ、研究機関、官公庁、大学、評価機関等、合計224名の参加があった。

 なお、主催者側出席者は下記の通り(登場順)。
GISPRI 福川顧問<開会挨拶>
経済産業省 大臣官房 市川審議官<基調講演>
GISPRI 木村専務<議事進行 及び 閉会挨拶>
米国 スタンフォード大学 David G.Victor氏<講演1>
電力中央研究所 杉山主任研究員<講演2>
英国 LEAD International John Ashton氏<講演3>
インドネシア Pelangi(環境NGO) Kuki副所長<講演4>
上智大学法学部 村瀬教授<講演5>
慶應義塾大学法学部 添谷教授<パネルディスカッション・コーディネーター>
経済産業省 産業技術環境局 地球環境対策室 坂本室長<パネラー>


<産業構造審議会による中間取りまとめと各専門家による議論>

 シンポジウムは、経済産業省産業構造審議会-環境部会-地球環境小委員会から発表された中間とりまとめを受け、京都議定書に残された課題を改めて整理し、将来あるべき国際的枠組みについて各国専門家を交えて様々な視点から議論することを目的に開催された。

 福川顧問の開会挨拶の後、基調講演として、経済産業省の市川審議官から産業構造審議会環境部会地球環境小委員会における議論が紹介され、
(1) 京都議定書は気候変動問題に取り組むためのファーストステップとして重要であり、日本はその定められた目標を着実に実行する。
(2) 一方で、京都議定書は2012年までの先進国のみの排出削減目標を定めるものであり、議定書でカバーされているのは世界の排出量のうち約3分の1に過ぎず、気候変動問題を解決するための真に効果的な枠組みとはいえない。
(3) 温室効果ガスの排出は生活に直結するものであり、自由経済の下では政府のコントロールには限界がある。
等の京都議定書に内在する問題点が指摘された。

 続いて、スタンフォード大学のデビッド・ビクター氏より、京都議定書の数値目標は基準年である1990年時点の経済状況などによりその数値の持つ意味は各国によって大きく異なること、現在の枠組みでは米国の参加は決して見込めないことなどが指摘され、長期的な視点に立った科学技術投資の重要性が強調された。

 二人目の講演者である(財)電力中央研究所の杉山大志主任研究員も、京都議定書の構造的な欠陥として、全ての問題を一つの議定書に盛り込み、様々な政治的意思を持つ国を同じ交渉の場に参加させてしまったことにより問題を複雑化させたと指摘した。杉山氏は、2012年以降には京都議定書の延長ではなく、気候変動枠組条約の枠組みだけにとらわれる必要はないとし、テーマ毎(例えば、科学協定、エネルギー効率向上協定など)に協定を結ぶことで参加国の義務と権利を明確化する新たな枠組み、いわゆる「オーケストラシナリオ」を提案した。

 一方、英国で4年間に渡って環境外交団幹部を務め、気候変動に関する国際交渉でも中心を担ってきたジョン・アシュトン氏(LEAD インターナショナル 戦略的パートナーシップディレクター)は、あくまで京都議定書の枠組みは維持すべきだと主張し、枠組みは拘束力を持つ数値目標のある政府主導のものでなければならないと強調した。但し、究極的なゴールはゼロカーボン社会の実現であり、そのために長期的な視点は重要であるとする点は他の講演者と一致するものであった。

 4番目の講演者として発表したSoejachmoen, Moekti Handajani(通称Kuki)氏
(Pelangi副所長 在インドネシア)は途上国からの専門家の代表として、途上国が参加することの重要性を訴え、そのためには全ての先進国の参加や、技術移転が必要であると述べた。

 最後に講演した上智大学の村瀬教授は、国際法の専門家の立場から京都議定書の制度的問題点を指摘した。京都議定書は拘束力をもつ削減義務を各国政府に課すものであるが、不遵守手続きなどの基本的なルールを決めないままに数値のみが先行して政治的に定められ、そもそも国家の権限を超えたものであることを指摘した。議定書に代わる新たな枠組みとして、WTOやGATTを例に出し、二国間主義と多国間主義に組み合わせなどにより柔軟性の高いものを構築すべきだとした。


<パネルディスカッション>

 各報告者から示された議論を踏まえ、パネルディスカッションが行われた。

 まず、京都議定書に関する現状認識については、目標設定のあり方として妥当性、公平性に問題が残っていること、また中長期的なビジョンが示されていないことなどが課題として提起され、いわゆるホットエアーや米国の離脱といった問題もこれらの課題に起因しているとの指摘があった。その上で京都議定書の将来展望としては、気候変動問題の解決という究極のゴールに向けて、長期的視野に立ち、全ての国が参加するような国際的枠組みを構築する必要があるとの発言が多くの報告者から出され、その際に必要な視点として以下の3点が挙げられた。
(1) 削減努力を積極的に評価し、奨励する柔軟性
(2) 目標設定における現実性、妥当性
(3) 中長期的な技術開発の促進
 他にも公平性(Equity)の問題については、政策には勝ち組と負け組が必ず出てくるため、特に気候変動問題という広範かつ複雑な問題においては高度な政治的判断も必要となる、といった発言が出された。

 一方で、京都議定書には素晴らしい要素が含まれており、特にCDM(クリーン開発メカニズム)は理念的に非常に重要であり、日本もCDMを実施することで途上国の持続可能な開発に積極的に寄与することが大切(経済産業省坂本地球環境対策室長)といった前向きな発言や、長期的なビジョンを示すにあたって日本は重要な役割を果たすことができる、といった日本のリーダーシップを期待する声も多くあがった。

 議論のまとめとして、コーディネーターを務めた慶應義塾大学の添谷教授より、
(1) 京都議定書を巡っては一定の枠組みが出来上がってしまっている感があるが、改めて効果的な国際的フレームワークを検討することには意味がある。
(2) 中長期的なCO2ゼロ社会の実現という究極のゴールに対して技術開発が不可欠であることの合意はある。
(3) 京都議定書の生みの親である日本だからこそ、その妥当性を様々な角度から検証することが重要であり、経済産業省の小委員会から提起されたこの議論をさらに深め、将来的なフレームワークの構築に向けて日本から世界に発信していくことの意義は大きい。
と総括した。

 最後にシンポジウム全体の総括として、GISPRI木村専務理事より、気候変動問題はすべての経済活動に影響を与える点が特徴的であり、技術革新などを進めることで最終的には地球上に住む全ての人に広く参加してもらう枠組み作りをしていかなければならず、今回のシンポジウムのように建設的な形で「どうすれば気候変動問題が解決できるか」という議論が深化していくことを希望する、と述べた。               

以 上

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