2004年1号

チャイナカウンシル本会議出席報告



 「環境と開発に関する中国国際協力委員会(チャイナカウンシル)」第3フェーズ第2回本会議が、10月30日(木)~11月1日(土)に北京に於いて開催された。以下に概要を報告する。

 チャイナカウンシルは1992年4月に設立された非政府組織で、環境に配慮した持続可能な開発戦略について中国国内外の専門家が検討し、中国政府トップに提言を行っている。本会議(議長:曾培炎・国務院副総理)は、毎年1回開催され、実働組織であるワーキンググループ(WG)及びタスクフォース(TF)からの活動報告を受けると共に、中国政府への提言を審議・決定してきた。1992~'96年の第1フェーズ、'97~'01年の第2フェーズに続き、'02年から第3フェーズの活動が始まった。

 日本からは、カウンシルメンバーとして石坂匡身・石油公団副総裁が、また「循環型経済とクリーナープロダクション(CE&CP)TF」の共同議長として井出亜夫・慶應義塾大学教授、「資金メカニズムTF」の共同議長として井村秀文・名古屋大学教授が活動に参加している。
<会議の概要>

1.参加者
   議長である曾培炎・国務院副総理、副議長である劉江・国家発展計画委員会副主任、解振華・国家環境保護総局長、曲格平・全人代・環境資源保護委員長、Mns Lnnroth・元スウェーデン環境大臣、Paul Thibaultカナダ国際開発庁(CIDA)長官他カウンシルメンバー、TFの共同議長、中国中央政府・省からの招聘者、オブザーバー等約100名が参加した。また事務局長は張 坤民氏から祝 光輝・国家環境保護局副局長に交代した。

2.主な議事内容
  (1)解振華副議長あいさつ
  過去数年間の間に中国政府はクリーナープロダクション促進法や環境アセスメント法の導入、放射能排出の適切なコントロールなど一連の環境施策を実施してきた。その一環として汚染企業の調査および操業規制・停止キャンペーンも行われた。
  地方政府も持続可能な発展に向けての実践的な取組みに積極的に取り組んでいる。
  中国は、低生産工程に起因する深刻な環境汚染と大量消費に根ざした従来の社会を変革しなければならない。高効率の技術の導入と人材の有効活用により低エネルギー消費と汚染の削減を実現したい。
 
(2)「小康社会と持続可能な産業化実現」についての討議
  リードエキスパートであるArthur Hanson氏による以下の内容のプレゼンテーションの後、討議が行われた。
  持続可能な産業化におけるプロセスには①中国・国際社会の持続可能な発展の目標達成に貢献できる生産・サービス活動、②資金面、社会面、環境面の最低基準を満たすための企業のキャパシティビルディング、③制度改革変革の支援、が含まれる。
  中国はクリーナープロダクションなどの変革的アプローチに向かいつつあるものの、工業化に依存した経済成長と環境悪化のジレンマにある。
  小康社会とは①GDPの拡大(2020年に2000年比で4倍)、②物質的な面だけでない社会的な豊かさ、③すべての地域、階層の人々への恩恵、④効率性を阻害しない範囲での公平性、を実現するものである。
  下記の10項目が論点として挙げられる。
  持続可能な産業化と小康社会実現の関連を充分に考慮すべきである。
  持続可能な産業化が成功するかどうかは多様なセクターがいかに協力して取り組めるかにかかっている。
  財政・金融改革が持続可能な産業化に必要である。
  適切な規模の個人企業が発展し、それらが持続可能な産業化・都市化に貢献できる政策が必要。
  持続可能な産業化のための新規法律制定と既存の法律の適用強化のバランスが必要。
  環境関連技術の外国からの導入と環境保護および環境関連産業の一層の発展促進が必要。
  持続可能な発展を測定し、評価する評価指標・手段が充分でない。
  産業界・金融業界・政府における運営面・財務面に関するキャパシティビルディング構築が急務。
  持続可能な消費行動の拡大が必要。
  グローバル化の進展の中で中国が世界の持続可能な発展に与える脆弱性をいかに克服するか。
 
(3)「事務局報告」 祝 光輝事務局長
  中国におけるチャイナカウンシルの高い位置づけは、中国政府の環境と開発に対する高い優先順位を反映している。
  1992年のリオ地球サミットを受けて政府が設置を承認したチャイナカウンシルによって、中国政府は他国の様々な経験を吸収することができた。また国内外の専門家を一堂に集め、環境保護と持続可能な開発について徹底して議論することができた。
  最近10年間は国務院総理ら政府幹部が直接中国政府への提言を聞き、その提言が政府に採用され、持続可能な発展に大きく貢献している。
  今年9月に政府内の20の省庁と8地方政府から昨年度の提言に対するフィードバックを受けた。
  カウンシルは今後概括的な政策提言を行わず、代わりに各タスクフォースが直接提言を政府幹部に手渡すこととしていきたい。
 
(4)TFからの報告
  企業の持続的発展TF、エネルギー戦略と技術TF、環境産業の発展TF、環境インフラ整備のための資金メカニズムTF、循環型経済とクリーナープロダクションTFから、活動実績及び政府への提言について報告を受けた。
  循環型経済とクリーナープロダクションTFからの提言について共同議長である銭 清華大教授と井出慶応大教授が発表した。発表の概要は以下のとおり。
  主要な結論
  小康社会の実現に向けて持続可能なアプローチを取るべきである。
  循環型経済は経済成長、新しい形の産業化、包括的な小康社会に向けての重要な道程である。
  クリーナープロダクション促進法を実行し、クリーナープロダクションを促進していくことが循環型経済実現のための必要不可欠な手段である。
  循環型経済の実現には企業・政府等関係機関の連携が重要である。
  政策提言
  国家発展改革委員会の指導の下で各政府機関による循環型経済の推進・実行のマスタープランを策定すること。
  政策と立法の両面により循環型経済の発展を促進すること。
  循環型経済および持続可能な発展についての総合評価指標のシステムと、原材料とエネルギーフローに関するデータベースと情報システムを確立すること。
  政府によるグリーン調達を徹底することによりグリーン消費を促進すること。
  研究開発と政策研究を支援することにより技術の刷新と革新を促進すること。
 
(5)提言(Recommendations)について
  提言は「小康社会と持続可能な産業化実現に関する提言」と「TF報告に基づく政策提言」の二部構成となっており、そのうち前者の概要は以下のとおり。
  持続可能な産業化へ向け中国政府の環境に対する投資が拡大しているが、GDPの拡大のペースには追いついていない。
  企業には利益面・社会面・環境面での3つの目標を同時に達成することが、政府には関連法の制定・適用および企業が持続可能な産業化へ向けて取り組むためのインセンティブの構築が求められている。
  持続可能な産業化は、従来の産業が提供してきた雇用や富の拡大に加えて下記のメリットをもたらす。
  国際競争力および高い効率性
  環境に優しい第3次産業の発展
  より少ない原材料・エネルギーによる生産目標の達成
  健康面、安全面、環境面における社会的コストの削減
  中国社会に適合した持続可能な製品・インフラの開発
  チャイナカウンシルは中国政府および企業があらゆるレベルにおいて首尾一貫した下記の行動を提言したい。
  新たに関連法を制定するよりも政策の実行や企業に対するインセンティブの強化に重点をおくべきである。
  金融・投資セクターの改革により、企業における利益面・社会面・環境面での3つの目標の達成を支援すべきである。
  持続可能な産業化に充分にかかわれるよう中小企業のキャパシティビルディングに力を入れるべきである。
  持続可能な発展のための戦略策定と投資の方向性を早急に明確化するべきである。特にエネルギー供給および環境関連技術の分野において重要である。
 
(6)温家宝国務院総理との会見
  10月31日午前、カウンシルメンバーとTF共同議長らは温家宝総理を訪問した。
  総理は、①経済発展と環境とのアンバランスを解消したい、②古い発展の理念を捨て、新しい発展の理念を提唱していきたい(人と環境の重視、都市と農村の格差縮小、国内外の連携等)、③市場の役割を重視するとともに政府の役割を明確にしていきたい などの発言を行った。


チャイナカウンシルの活動に関してより詳細な情報が必要な方は、担当:阿部宛ご連絡ください。


(文責:阿部 秀樹)

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