CDM/JIへの事業者の取組みの促進に関する調査研究委員会は、山口光恒委員長(帝京大学経済学部教授)の下で4回開催された。日本が京都議定書の目標を費用効果的に達成するうえでは、国内対策に対して補足的であるとの原則を踏まえたうえで、京都メカニズムの適切な活用が必要である。そこで、事業者が経団連の環境自主行動計画で掲げる目標を費用効果的に達成するために、現行枠組みの下でいかなる取り組みを行うことが有効であるかという観点で、京都メカニズムをより効率的に利用するに際しての障碍を明らかにしその解決策を探ることを目的として本委員会での調査研究が実施された。主要な調査事項及び委員会における議論の概要は以下の通りである。 |
■CERの供給動向 CDM理事会により承認されたプロジェクトの数及び供給見込みのCERの量は、2005年に入ってからは指数関数的な増加傾向を示している。2006年3月16日現在、登録済みの141件のプロジェクトから供給される見込みのクレジットの量は年平均で50.5Mt-CO2であり、2012年までに発行される見込みの量で見れば約330Mt-CO2となっている。 また、日本政府承認済みプロジェクトのうちCDM理事会登録済みの16件のプロジェクトからは年間32.7Mt-CO2が供給される見込みであり、一方で、日本が現時点で表明していると判断出来る需要は年間25.06Mt-CO2である。とはいえ、上記の発行予定量は見込みであること、参加する日本企業の取得するクレジットのシェアが100%ではないこと及び上記の需要は増大する可能性もあることから需給が均衡するかどうかは予断を許さない状況にある。 |
■COP/MOP1における決定事項 2005年11月28日から12月9日にかけて開催されたCOP/MOP1における主要な決定事項は、今後のCDM/JIの展望にさらなる明るい兆しをもたらすものであった。具体的には、マラケシュ合意の採択、JIに関する第6条監督委員会の設立、遡及クレジットの利用要件緩和、二酸化炭素回収・貯留プロジェクトのCDM化へ向けた検討開始、プロジェクトのバンドリング可能性の拡大、日本が提唱しているFuture CDMのさらなる推進(省エネ、運輸等の新方法論開発による抜本的な促進策)、小規模CDMの定義見直しなどが挙げられる。これらの進展状況によっては、CDM/JIクレジットの供給量のさらなる増加に結びつくであろう。 ■事業者ヒアリング結果 本研究では、電力7社、鉄鋼1社、ガス1社、商社1社、コンサル1社、認証機関1社に対しCDM/JIに取り組むうえで障碍となり得る事項についてヒアリングを行った。また、先進的に取り組んでいる商社の方を委員会にお招きし、直接議論も行った。経団連の自主行動計画における目標を負う業種については、社会的責任から必達のものであるという認識で取り組んでいる事業者が殆どであった。とはいえ、コンプライアンスという視点のみならず、海外への将来的なビジネス展開という視点から取り組んでいる事業者もあり、さらに、その取り組み度合いは会社によって大きな差があることも特徴的であった。 ■機能し得る対策 <国内での削減プロジェクト(ユニラテラルJI)制度の検討> そもそもCDM/JIの活用の目的は費用効果的なクレジットの入手である。この意味では削減プロジェクトは必ずしも国外に限る必要はない。国内外を問わず、最小費用で最大のクレジットを取得できるプロジェクトがあれば、それを実施するのが最も効率的である。 しかし経団連の自主行動計画は全業種がまとまって一つの目標をコミットしている(経団連バブル)内容となっており、各業種間の排出量の取引は想定していない。さらに、個別企業ごとの自主的目標についても特段の定めがない。こうした中、経団連自主行動計画参加企業同士でプロジェクト実施によるクレジットの取引を行うのは現実的ではない。しかし、必ずしも全ての業種・企業がこれに参加しているわけではないので、自主行動計画参加企業とそれ以外の企業の間でこのようなプロジェクトの実施を検討することはそれなりの価値があろう。 さらに、これまでの排出の伸びから見て、今後の重点は民生・運輸部門であることは明らかであるし、潜在削減量もかなりあると予想されるにもかかわらず、こうしたセクターでのGHG排出削減のインセンティブがない。こうした中で経団連自主行動計画参加業種・企業と民生・運輸部門の間でクレジットの移転を伴う削減プロジェクトを実施することは当該業種・企業にとり費用効果的な削減に繋がると共に、民生・運輸部門に焦点を当てた日本の政策とも調和するものである。 この意味で国内での削減プロジェクトの可能性を検討することは意味のあることであると考える。なお、当然のことながら国内プロジェクトに関しては削減の追加性が必要である。すなわち、民生・運輸部門のベースライン排出量を慎重に見極め、現行対策の削減効果をユニラテラルJIの削減効果とみなさないようにする必要がある。 <2013年以降に関するメッセージ> 議定書の約束期間以降は将来枠組みが決定しておらず、CDM/JIという制度が存続するかどうか定かではない。このことが、事業者がCDM/JIに取り組むに際しての大きなリスクとなっている。ここで、我が国の公的部門が具体的に制度の継続について明言するのは、その制御可能性を越えるため困難であるが、何らかの形で「2013年以降もCDM/JIクレジットの実質的な価値は継続する」と事業者が受け取れるようなメッセージが出されれば、事業者はより積極的にCDM/JIに取り組むことが可能となるであろう。 <その他> 上記に加え、CDM/JIを事業の海外展開という視点で捉え直すことで事業者のプロジェクト実施可否判断は緩和される可能性がある。また、知見の共有や戦略的キャパシティビルディングなどを通じて参加者の裾野拡大を促すことは、長期的に我が国の気候変動対策が費用効果的に深化する助けとなるであろう。 |
■検討委員会メンバー(敬称略・順不同 H18年3月31日現在) |
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