2013年2号
変容する世界と日本の進路 ―危機と混迷の中に指針を探る―
(一財)地球産業文化研究所 顧問 福川伸次
1. 21世紀の世界に何が起るか―世界のパラダイム・シフト
- (1) 国際政治構造の変容
- ① 時代の変遷
- ― 文明は西転する?
- ― パックス・ブリタニカ(19世紀)からパックス・アメリカーナ(20世紀)へ
そして21世紀はパックス・アシアーナか、パックス・コンソルティスか
- ② グローバリゼーションがもたらすもの(東西冷戦の終焉)
(期待されるプラス要因)
- ― 政治面:民主主義、相互依存、集団安全保障、国際機関の活動、世界平和
- ― 経済面:自由貿易(WTO)、投資交流、自由な企業活動、技術革新、IT化、経済成長
- ― 社会面:思想の自由、人の往来、文化交流、医療協力、環境保全、人権尊重
(懸念される不安要因)
- ― 政治面:国力平準化、多極化構造、国内利益指向、国際機関停滞、国際合意の困難化
- ― 経済面:景気変動の同時化、振幅の増大、国際不均衡、保護主義、成長力停滞
- ― 社会面:一部の治安悪化、貧困格差、感染症、環境悪化、ミレニアム計画の遅延
- ③ グローバル・ガバナンス構造の変化(不確実性の増大)
- ― 基軸国の衰退:米国の求心力の低下、これを支える欧州、日本の停滞
- ― 新興国の拡張:大ロシア主義、中国、インドなどの拡大、G8からG20体制へ
- ― 国際秩序信任の動揺:国連などの機能低下、集団安全保障体制の停滞、ポピュリズム
- ― 主要国の協調体制の低下:北朝鮮6か国協議、イラン核開発、シリア内戦、パキスタン問題、アフガニスタン問題、イスラエルとパレスチナ紛争、新ラウンド、環境協議
- ― イスラムをめぐる不安:イスラムの人口増加、エジプトの不安定、サウジアラビアの後継者問題、過激派の動向、テロ活動、宗派間対立
- ― 中国をめぐる不安:軍事力と経済力の拡大、統治の不透明性、第5世代の評価、格差問題、社会的不満、統治機構の構造的矛盾
考えられる選択肢としては、国際ルールを尊重するグローバル国家、米国と対立する覇権国家、国内の不満と対立が激化する停滞国家
- ④ 対立構造の変容(複雑化と多元化)
- ― 民族、宗教などの対立、地域紛争の激化、先進国と新興国や発展途上国の対立
- ― 対立要因の複雑化と多様化:安全保障、経済、金融、環境、エネルギー確保など
- ― 国内の統治機能の停滞、国内利益指向がもたらす国際摩擦現象の多発
- (2) 国際経済構造の変質
- ① 金融危機と世界同時不況
- ― リーマン・ショック、金融危機、世界不況、その克服への国際協調
- ― 市場原理主義と金融優位の経済運営の限界とその修正、市場ユートピア評価
- ― 国際協調行動にも拘らず世界経済の回復力が脆弱、世界経済が長期停滞か、
- ― 保護主義への懸念、一部に見られる国内産業支援の傾向
- ② 米国経済の停滞
- ― 双子の赤字などによるグローバル・インバランスの拡大
- ― 財政構造の悪化、財政の崖、景気回復の遅れ、雇用不安、ドル基軸体制の揺らぎ
- ― 政治のねじれ現象(上院民主党、下院共和党)で意思決定機能が低下の恐れ
- ③ ユーロ危機
- ― EUの財政リスクと金融危機、金融支援基金、問題国への財政規律及び金融規制強化
- ― PIIGSなどの財政危機の背景に統治機能の停滞
- ― 信用収縮が世界に波及し、欧米金融機関が危機に、ユーロ不安
- ④ 新しい成長への模索
- ― 政治構造の変化が引き起こす政治のポピュリズムが経済上の構造的不均衡を招来
- ― 伝統的な景気対策手法(金利引き下げ、財政刺激策)の機能低下、構造対策の要請
- ― 市場と公的調整の最適適合
- ― 新しい成長パターンの追求、金融中心から人間価値重視の経済運営
- (3) 産業文明の大転換
- ① 資源エネルギーの供給制約、地球環境の悪化
- ― 産業革命以来人類が発展させてきた産業システムは「地球上の資源は無尽蔵、大気の循環機能は永遠」との前提に立つが、それが今や崩壊
- ― 地球人口の増大と新興国のエネルギー需要増大、資源エネルギーの供給限界の顕在化、資源エネルギー価格の高止まり、イラン制裁の影響、中東産油国の政情不安
- ― 福島第一原子力発電所災害で、原子力利用への不信と不安が拡散、原発廃止の国も
- ― 世界的にエネルギー構造が脆弱に、資源確保競争、一方オイルシェールなどへの期待
- ― 自然のCO2吸収量が年間31億トンに対し、最近の人為的排出量72億トン
IPCC4次報告では21世紀末までに世界平均気温1.8~4.0度、平均海面水位18~59センチメートル上昇と予測
- ― 熱波、長雨、砂漠化、沿岸地域の水没、土地の劣化、生態系の破壊、水不足、食料不足、感染症の拡大を招く
- ― 気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)で京都議定書の後継の枠組が難航、一応2020年以降の枠組みを2015年までに締結することを合意
- ② 知識社会の到来
- ― 電子情報技術(ICT)の進歩がイノベーションを促進
- ― ユビキタス社会を実現、グローバリゼーションを加速、企業行動、生活体系を変化
- ― iPhone、iPadなどスマートフォンが情報手段を革新
- ― ICTが政治、経済、産業、経営、社会、文化などを改革
- ― 国力の評価が、ハードパワーからソフトパワー、スマートパワーへ
- (4) 東アジア経済の発展
- ① 東アジア経済の成長力
- ― 1980年代以降アジアが成長過程に、21世紀に入り中国、インドが急成長
- ― 中産階級が成長を主導、世界経済の回復に貢献
- ― 世界のGDPにおける東アジアの比率は約25%、2030年には約40%に
- ― 域内貿易は50%を超え、やがてEU並みに
- ② 欧米経済危機の影響
- ― EUのソベリン・リスクなどの影響で信用収縮、不況の連鎖の懸念、中国経済の動向
- ― 製造業の供給過剰傾向の恐れ、内需拡大、格差是正、物価安定などが鍵
- ③ アジア地域の安全保障
- ― 中国軍事力の増大、東シナ海、南シナ海の領有権問題と自由航行、北朝鮮の核開発
- ― 米国の退調
- ④ 東アジアの地域連携
- ― アセアンを中心にFTAが広範に展開、アセアン+3、アセアン+6、日中韓FTA
- ― アジア地域フォーラム、東アジア共同体構想、そしてTPP、FTAAPなど
- (5) グローバルズムの再生-ニュー・レジームの確立
- ① 将来の世界構造の展望
- ― 世界人口(百万人)(2010)69.1億人(2050)91.5億人、人口増加は発展途上国
- ― 2030年に中国の経済規模は米国と肩を並べる。
- ― 日本は2030年まで0.5%前後の成長に留まり、インドに抜かれて世界第4位の地位に
- ― 欧州経済は停滞し、米国経済は低成長に
- ― 世界経済の牽引役がアジアに移る。
- ② グローバリズムの持続可能性
- ― 多極化によりグローバル・ガバナンス機能が低下、グローバリズムへの意欲の低下
- ― WTOが2011年末に新ラウンド交渉を断念、COP17が難航、不況克服の不安、金融安定への目途困難
- ― グローバリズムの意義の再確認、規律あるグロ-バル・ガバナンスの実現こそ重要
- ― 主要国の国内統治機能の再生と国益と地球益の調和
- ③ 予測されるガバナンス構造
- ― 米中2極構造:米国の国際主義と中華思想の調和の可能性、対決型か、協調型か
自由貿易体制への意欲、米国の内向き傾向、中国の成長力、元の地位、
- ― 米国の相対的主導による多極構造(アジア太平洋主導構造):緩やかで開かれた連帯質の高い市場システムの維持と運営の可否
- ― 多極併存構造:不安定な分散構造、無極の可能性も、国際機関の機能発揮も困難。
- ④ 国際公共財の提供メカニズムの改革
- ― 複雑な国際公共財の提供には多国間協力が不可欠、そのシステムづくりが課題
- ― 政治:集団安全保障、核拡散の防止、核廃絶、軍事力の透明性など
- ― 経済:市場原理、WTO、FTA、イノベーション、知的財産制度、標準制度など
- ― 社会:人間安全保障、環境保全、労働条件、貧困解決、感染症防止、災害防止、安全確保
- ⑤ 日本にとってのグローバリズム
- ― 資源、エネルギー、食料の供給や市場の多く海外に依存し、その安全を集団安全保障体制に依存する日本としてはグローバリズこそ存立の基礎
- ― グローバリズム再生への国際合意形成への働きかけ
- ― 技術力と文化力を高めつつ国際社会から評価される質の高い経済社会を構築する。
- ― 世界最高の海外純資産を活用し海外展開を図る。
2. 日本の国力の評価―危機の構造分析
- (1) 成長力の減退
- ― 年平均成長率1956~73年度 9.1% 1974~90年度4.2% 1991~2009年度0.8%
- ― 1990年代にバブル崩壊後低成長に、2000年代前半に回復、2008年金融危機発生でマイナス成長に、2010年から回復過程に、そして東日本大震災、世界金融危機
- ― 2010年に中国に抜かれ世界第3位の経済規模に
- ― 最近の実質成長率 2009年度―2.1%、2010年度3.3%、2011年度0.0%
- ― 円高、デフレ、生産拠点の海外移転、成長力低下、雇用機会の縮小
- (2) 日本の国際的地位の低下
- ― 世界にGDPシェアー 1990年14.3% 2008年8.9% 2010年8.7%(世界第3位、中国シェアー9.4%)、2030年には5.8%との予想
- ― 一人当たりGDPの順位 1993年2位 2000年3位 2008年23位。円高が進み2009年16位、2010年14位(42,983ドル)に回復
なお、1位ルクセンブルグ(115,313ドル)、中国は4,430ドル
- ― IMD国際競争力評価の順位 1991-3年1位 2008年22位 2012年27位
- ― 来日観光客 国際的に低水準 2008年835万人 2009年679万人 2010年861万人
- ― 対内直接投資のGDP比率(2010)は国際的に低水準
日本3.9% 米国23.5% 英国48.4% 仏39.1% 中国9.9% 韓国12.6% インド12.0% 世界30.3%
東証1部上場外資系企業数 1990年125社、2000年41社、2011年9社
- ― 2000年前後は世界最大の援助国、最近は5位に後退(援助額がピーク時の半分)
主要国の援助のODAのGDP比率(2008年)0.19%でDAC加盟22国中21位
- ― 日本の産業力が低下 鉄鋼、パソコン、自動車、TVなどで中国がトップシェアー
3Dテレビなどハイテク製品で韓国、台湾が優位、背景に産業のイノベーション力低下
- (3) 東日本大震災の衝撃
- ― 東北地方への被害16-25兆円、生活基盤の崩壊、復旧作業の遅れ
死者15、844人、行方不明3、541人(2011年12月29日現在)
- ― 3次にわたる補正予算、規模約19兆円(阪神淡路大震災約3.2兆円)
- ― 製造業はほぼ震災前の水準に、農林水産業、観光業が回復過程に
- ― 福島第一原子力発電所の災害、原子力安全神話が崩壊
- ― 東日本大震災が示す日本の強さと弱さ
強さ―自助、共助の精神、困難に際しての克服力、社会的一体性
弱さ―危機管理体制の不備、国、地方、民間の弱い連携、戦略性と総合性の欠如
- (4) 少子高齢化の影響
- ― 特殊合計出生率 2005年1.26、 2010年1.39
- ― 2010年の人口12,826万人、2030年11,652万人、2060年8674万人
- ― 高齢者(65才以上)比率 2010年23.0% 2030年31.6% 2060年39.9%
- ― 貯蓄率低下、社会保障費増加、労働力減少、市場の縮小、金利上昇で成長力低下
- ― 出生率の向上、高齢者及び女性の労働市場への参入拡大、技術革新、一定の範囲での海外労働力移入などの総合対策が必要
- (5) 財政構造の悪化
- ― 日本の財政構造は、先進国で最低、東日本大震災で更なる財政負担
- ― 2012年度予算 規模90兆3339億円(-2.2%)、税収42兆3446億円、新規国債発行44兆2440億円、国と地方の年度末長期債務残高937兆円(GDP比195%)
- ― 財政債務のGDP比率(OECD調査2010) 日本179.9 ギリシャ143.0
- ― 国債暴落の懸念、インフレ傾向になると金利上昇
- ― 社会保障と税の一体改革、消費税引き上げ(2014年4月8%、2015年10月10%)、与野党の折衝が課題、世代間格差の解消、医療、年金の制度改革、更なる増税
- (6) エネルギー構造、地球環境の脆弱性
- ― 化石燃料など多くのエネルギー資源を海外に依存、供給限界から資源獲得競争激化
- ― 福島第一原子力発電所の災害で、原子力への信頼が崩壊
- ― 供給面、価格面、環境面でエネルギー構造が脆弱に、石油の高い中東依存
- ― 原子力発電所54基中4月に定期点検で一時すべて稼動停止、現在大飯の2基稼動
- ― 政府は2030年代に原発の稼動ゼロを目指してエネルギー政策の再編成を検討中
- ― ソーラー、風力など新エネルギーへの期待、供給安定性やコストの面で不安定
- ― 電力供給不足、エネルギー価格上昇で産業の国際競争に不利
- ― 3つのE(Economic Growth,Energy Supply,Environmental Protection)プラスS(Safety)の確保が基本
- (7) 企業環境の劣位性
- ― 高い企業課税負担、円高、厳しい環境負担、雇用条件の制約、高い電力コスト、FTAなど交易条件の不利(6重苦)
発効済、締結済のFTAの貿易に占める割合 日本17.6% 米国18.0% EU27.6%
中国21.5% 韓国35.8%、韓国は米国、EUとFTA締結
- ― 韓国、中国などに比べて経営者の挑戦意欲が低調、グローバル人材が不足
- (8) 技術開発の評価と企業化の弱さ
- ― 情報通信技術の進歩は、技術革新を拓く新たな手段を提供
- ― 研究環境、研究費、研究人材、知的財産保護などが不可欠、中国、韓国などが拡大
- ― R&DのGDPに対する比率(2010年 科学技術指標調査 %)
日本3.57 米国2.87(2009) EU27 1.91 中国1.77 韓国3.74
- ― 特許申請では中国が世界でトップ。次いで米国、日本。日本はその企業化が問題
- (9) 内向きの社会意識
- ― グローバリゼーションの傾向にもかかわらず社会意識が内向きに
- ― 企業の海外志向が韓国などより低調
- ― 青少年の留学意欲が低下 日本人の海外留学生 2008年66.8万人(前年比11%減、4年連続マイナス)
- ― 米国での博士号取得(2008年)中国約4500人 韓国約1700人 日本約200人
- ― 農業などで保護主義が定着、WTO、FTAなど主導権が取れず、TPPも交渉不透明
- ― 自殺2010年31560人、13年連続で3万人超、先進国で最悪
- (10) 政治の統治機能と政策形成の脆弱性
- ― 政治改革の目標は政権交代可能な活力ある政党政治の実現
- ― 2009年8月民主党により政権交代が実現
- ― 政治家主導で政治と行政間に不信、マニフェスト原理主義や経験不足で政治不信
- ― 2010年7月参議院選挙で民主党敗北、国会に衆参両院のねじれ現象、政治が停滞
- ― 与野党を通じて政党の政策力が低下
- ― 沖縄基地問題などで日米関係が冷却、種々の問題で日中関係が国交正常化以来最悪
- ― 北方四島、竹島、尖閣諸島をめぐる領有権問題
- ― 税と社会保障の一体改革の与野党合意、定数是正、衆議院の解散
- ― 自公連立政権の発足、第3極の政治勢力に関心、選挙後の政治情勢は不透明
- ― 政治の停滞の原因究明が必要、選挙制度などのシステムか、政党か、人材か
3. 日本力(ジャパナビリティ)の再生への挑戦―日本の活力を取り戻すには
- (1) 東日本大震災の復旧を超える日本の改新
- ① 内外の構造変化に対応した新しい成長パターンの追求
- ② 大震災の経験を活かした構造改革と危機管理機能の充実
- ③ 日本社会の特質の再認識
- ― 日本社会には、内外の知の吸収と融合(チエづくり)、道を究める努力(匠の技)、相互信頼関係の尊重、自然との共生のもとで育む美と感性が持続
- ― 日本的なものと西欧的なものが共存するハイブリッド性の存在(文化的刺激)
- ― 自然の恵みを大切にする思想から「もったいない」「足るを知る」価値観が定着、これが省エネルギー技術やエコ商品の開発に有利性を発揮
- ― 日本の社会の特質を活かし、人間価値尊重の社会の実現
- (2) 政治のガバナンス機能の再生と政策力の充実
- ― 政党力の充実(政策力、資金管理、人材育成、政治倫理など)
- ― 政策力の強化(情報収集、政策形成、説得、実行、評価など)
- ― 成長戦略の再編成、政治と行政の信頼の回復、政府と日銀の適正な関係
- ― 政策形成における内外の情報と英知を結集するメカニズム
- ― 選挙制度の再評価(一票の格差是正、小選挙区制度、中選挙区制度、比例代表制)
- (3) 努力すれば報われるシステムと意識の定着
- ― 政治がすべてを決める仕組みは社会の活力を阻害、市場機能が基本、政治の役割は社会の土壌改良
- ― 「出る杭は打たれる」という意識を超え、成功者を素直に讃える意識の定着が必要
- ― 失敗者に再挑戦の機会を認める柔軟性が必要
- (4) グローバリズムの展開
- ― 日米安全保障体制と節度ある自衛力、それに経済、文化、技術を組み合わせる総合安全保障システムの形成
- ― 良好な国際関係を形成維持する外交力の充実、対外発信力の強化
- ― TPP、FTAの積極的展開、新「新ラウンド」の提案
- ― 日本企業による海外展開、M&Aの積極的な活用(2011年は前年の2倍の約5兆円に)
- ― 国際交流拡大による海外の知の導入(同質社会では新しい知は生まれにくい)
- ― 国際的金融センターへの挑戦
- ― 国際公共財の提供への貢献
- ― 対外純資産残高を活用(2010年末3兆880億ドル、20年間連続で世界最大)し、技術開発、海外投資、文化交流などの促進、技術創造国家、文化交流国家を目指す
- (5) 新しい成長を目指す新産業革命への挑戦
- ① 産業構造の改革
- ― 低資源、低エネルギー、低炭素で知識創造性の高い産業構造の構築
- ― ICTの活用による知的価値の高度化
- ― 医療介護などの社会サービスの推進と規制改革、医、工、技の連携
- ― 農業の第6次産業化、ハイテク農業の形成
- ② イノベーション力の充実強化
- ― 研究環境の改善、研究費の増加、研究人材の養成、知的財産権の保護など
- ③ エネルギー政策の再編成
- ― エネルギー供給の最適構造、民主党政府は2030年代に原発稼働ゼロを目指す
- ― エネルギー効率の徹底、新エネルギー開発、エコ商品開発
- ― 福島原子力発電所の災害の原因究明、電力供給体制の改革、原子力安全技術の強化
- ④ 産業と文化の融合
- ― 大競争時代には数量、価格、品質に加えて製品などの魅力、感性、品格などが重要
- ― 日本文化は、国際的に高い評価、日本のモノづくりに文化性、日本食もブームに
- ― 日本のコンテンツ、ファッションなどは世界の若者に人気
- ― 電子情報技術は、産業と文化、技術と芸術の融合を加速、新しい市場を創造
- ― 高い技術が多様な文化を生み、新しい文化欲求が技術革新を促す
- ― 文化、歴史、技術の教育が決め手
- (6)人間力の充実
- ― 人間力こそイノベーションと改革の源泉、自己決定能力の回復が鍵
- ― 考える力、フロンティア精神、グローバビリティ、コミュニケーション力、日本の魅力の理解の培養が必要、二番手発想の脱却
- ― 時代の変化を先取りする人間価値を高める教育の改革
- ― 高等教育機関の改革と競争力の強化
英国タイムズ・ハイヤー・エデュケーション誌(2010)によると200校中日本5校、中国6校、韓国、台湾、香港各4校、なお東大のランキングは21位
- ― 教育に対する公的支出のGDP比率 0.6%(OECD平均1.2%)
- ― 海外の優秀な人材の受け入れ
- ― 世界の舞台で活躍するニューエリートの育成(政治家、経営者、科学者、技術者、教育者、デザイナー、スポーツ選手など)
4. コーポレート・ガバナンスの改革と企業力の充実―企業こそ成長の担い手
- (1) 企業が追求すべき価値とは
- ― 4つの価値(収益価値、顧客価値、従業員価値、社会価値)の極大化
- (2) 不確実性を高める企業環境
- ① 国際要因
- ― 国際政治、国際経済、国際通貨金融上のリスク
- ② 国内要因
- ― 統治機能低下による政治リスクの懸念
- ― 人口減少、高齢化などにより成長力の低下、雇用不安、世代間対立など
- ― 財政リスク、国債リスク、国際収支リスク
- ― 企業行動に対する社会の厳しい評価
- (3) 市場構造の変容
- ― 市場の主導権が供給サイドから需要サイドへ
- ― グローバル大競争の時代へ、競争要因が数量、価格、品質から美、感性、魅力へ
- ― 需要構造の変化により市場が多様化、多変化、短サイクル化へ
- ― 高価値指向(文化、感性、時間、教育、自然、健康、安全、安心など)へ
- (4) イノベーションの変革
- ― 市場構造の変化がイノベーションの特質をプロダクトアウトからマーケットインへ
- ― ICTの進歩が市場の変化を把握するシステムを提供 ネットワークの利益
- ― 基礎研究は引き続き重要、マーケットインへの対応力を増進、産学官の連携
- ― 成長への新しい手段を提供(技術革新、経営改革、社会改革)
- (5) コーポレート・ガバナンスの改革
- ― 経営方針の確立、企業の幅は経営者の能力に依存
- ― 将来への構想力、視野を世界に、市場、技術などの変化への感受性
- ― 自己及び企業を客観的に評価する能力、成功体験にこだわらない
- ― 従業員、顧客などステークホールダーを惹きつける魅力
- ― 企業システムの運営管理能力、各部門の活性化
- ― 社会との調和、社会貢献、企業の社会的責任の実践
- ② 弾力的な経営戦略
- ― 変化への柔軟な対応、自己の企業の経営資源の把握と社外の経営資源の評価
- ― M&A、共同研究開発、企業提携の活用
- ③ 人材力の強化―人材教育、適正な人事、公正な評価、やる気を起させる動機付け
- ④ 危機管理機能の充実
- ― 危機要因の想定(政治リスク、経済リスク、自然災害、エネルギー環境要因など)
- ― 事前的危機管理(危機の発生を未然に防止し、危機に対する対抗力を備える)
- ― 事後的危機管理(危機が発生した場合その影響を極小化しかつ急速な復旧を図る)
- ― 構造的危機管理(危機への対抗力と対応力を高める構造的な対策)
- (6) 先人の教え
- 渋沢栄一「経済と道徳の一致に勉むるには常に論語と算盤の調和が肝要である」
- 吉田松陰「何事も志がなければならない。志を立てることがすべての源である」
- 中国格言「志小なれば足る易し、足る易ければ進みなし」
- (7) 企業経営はアートである
- ― アートが鑑賞者に感激をもたらすように企業経営は市場への感激が必須
- ― アートは各パートの有機的な統合(演劇だと、脚本、演出、主役、脇役、照明など)
- ― 経営も各部門の有機的な統合(経営方針、管理、市場調査、生産、販売、PRなど)
<参考 1>
世界の経済規模の構成比(%)
(出所) 内閣府予測資料など
<参考 2>
主要国の財政、経常収支、対外純資産の比較
(出所) OECD、IMF、財務省などの資料による
<参考3>