2009年3号

平成20年度「排出クレジットに関する会計・税務論点調査研究委員会」報告書 平成20年度 財団法人JKA補助事業


 排出クレジットに関する会計・税務論点調査研究委員会は、黒川行治委員長(慶應義塾大学教授)の下で5回開催された。
 2008年度は、京都議定書の第一約束期間(2008~2012年度)が始まるとともに、2008年6月の福田ビジョンにより提示された排出量取引に関する日本国内の統合市場の試行的実施がスタートした年度でもあった。また、東京都においては、それまでの地球温暖化対策計画書制度を改正し、2010年度からの排出総量削減の義務化を目指して、制度設計ならびに対象者への説明・意見交換なども行われた。
 このため、本委員会においては、これまでの議論を通じて蓄積してきた京都クレジットに対する知見を活用して、国内の排出クレジット類の取り扱いに際して発生すると思われる課題を先駆的に抽出・議論することにより論点整理を試みた。

■試行排出量取引スキームと国内クレジット制度の概要
 排出量取引の国内統合市場の試行的実施は、平成20年10月21日付けの地球温暖化対策推進本部決定に基づき、以下の2つの仕組みから構成されている。
①企業等が削減目標を設定し、その目標の超過達成分(排出枠)や、次項②のクレジットの取引を活用しつつ、目標達成を行う仕組みとしての「試行排出量取引スキーム」
②前項①の試行排出量取引スキームで活用可能なクレジットの創出、取引
・国内クレジット(京都議定書目標達成計画に基づき、中小企業等や森林バイオマス等に係る削減活動による追加的な削減分として創出されるクレジット)
・京都クレジット

■試行排出量取引スキームにおける排出枠の取扱い
 試行排出量取引スキームにおいて、参加者は自主的に排出削減目標を設定し、その達成のために自らの削減努力に加えて、排出枠やクレジットの取引が認められている。排出削減目標の設定方法ならびに排出枠の交付時期については、以下のような特徴を有する。
①排出削減目標の設定において、「原単位目標」と「総量目標」のいずれも選択可能
②目標を設定した参加者においては、排出枠の「事前交付」と「事後交付」のいずれも選択可能(※「原単位目標」を選択した場合、「事後交付」のみ選択可能)
 このうち、既存の国内会計基準で想定していなかった「事前交付により取得した排出枠の事前交付時、その後の売却時および期末時の会計処理」を中心として、ASBJ排出権取引専門委員会での審議状況を参考にしつつ、意見交換を行った。

■国内クレジット制度における排出クレジットの取扱い
 国内クレジット制度は、自主行動計画を策定していない企業(以下、「中小企業等」とする)が、自主行動計画を策定している企業(以下、「大企業等」とする)からの資金や技術などの支援を受けて排出削減事業を推進し、その排出削減量を認証し、自主行動計画等の目標達成のために活用する制度である。
 京都メカニズムクレジットと同様に「ベースライン&クレジット」方式で排出削減量が算出されるものであるが、排出削減事業に対する、中小企業等および大企業等のそれぞれの関与度合い、排出削減事業から発生した国内クレジットの原始取得や価格設定の考え方など、新たに検討が必要となると思われる事項を抽出して議論を行った。

■東京都における排出総量削減義務と排出量取引制度の研究
 東京都は、これまでに「地球温暖化対策計画書制度」を通じて、一定以上の温室効果ガスを排出する事業所に対して、温室効果ガスの計画的な削減を求めてきたが、この制度を改正し、2010年度からは総量削減の義務化が予定されている。さらに、その削減義務の履行手段の一つとして、排出量取引制度もあわせて導入される予定である。
 そこで本委員会においては、制度の概要についての理解を深めるとともに、排出削減義務の帰属先や継承、削減義務不履行時のペナルティ、制度の直接の対象外となる事業所(都内中小事業所、都外事業所)における排出削減活動から発生する排出削減量の取扱いなどに焦点をあて議論を行った。

■検討委員会メンバー(敬称略、50音順、H21年3月時点)
委員長: 黒川 行治 慶應義塾大学 商学部教授
委 員: 伊藤 眞 慶應義塾大学 商学部教授
大串 卓矢 株式会社日本スマートエナジー 代表取締役
木村 拙二  愛知産業株式会社 監査役
高城 慎一 八重洲監査法人 公認会計士
武川 丈士 森・濱田松本法律事務所 弁護士
村井 秀樹 日本大学 商学部教授
以 上

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