はじめに |
中国経済のマクロ認識としては、順調に成長、拡大しているものの、景気過熱論(投資過熱問題、不良債権問題、バブル崩壊論)、為替議論(人民元切り上げ論、外貨準備問題)等が浮上している。また、効率一辺倒の政策を遂行してきた結果、都市部と農村部の所得格差、人口流入による雇用問題等、内政的にも弊害が生じている。さすがに中国政府も景気抑制政策に転じており、また所得格差への是正策も打ち出しているところである。 日中経済関係も以前の中国脅威論から中国牽引論に変わり、足下の日本経済復活は中国向け輸出によるところが大である。しかし、あまりにも急成長のため原材料不足による価格高騰や需給ギャップ問題などアンバランスも生じており、先行き不透明感は否めない。企業から見るとこの変化のスピードにどう対応するか、ビジネスを行う上で経営の舵取りは大変難しくなってきている。低賃金を武器に「世界の工場」として台頭した中国だが、企業経営としては巨大な人口を背景とした潜在需要のある中国市場をどう取り込むかというマーケット戦略が今や最重要課題となった。 本委員会は、平成14年度に引き続きほぼ同じメンバーで構成し、マクロ議論としての中国経済、ミクロ議論としてのビジネス環境について考察した。今年度はより具体的に企業戦略としてのチャンスとリスクに焦点を絞った研究を実施した。研究会活動としては、中国に進出し成功を収めている企業の経営者他を講師としてお呼びし、中国ビジネスにおける実践的な事例を基に研究、その認識を深めた。 一言でいうならば、進出企業が中国においてビジネスチャンスどう活かすかは、「現地化」、特に人の現地化の徹底とその「ガバナンス」に集約されよう。 リスクの最大テーマは「売上代金回収」と「知的財産権保護」問題である。リスクの無い所にチャンスは無いのであって、成功の秘訣は日本企業自身の中に存在、中国認識を深める以外に方法は無い、ということであろう。 中国経済問題は、単に一国だけの課題ではなく、今や、アジア、欧州、米国など、世界全体にまで影響を及ぼすほど拡大した。日本経済を展望するとき、日中関係もさることながら、今後、あらゆる地域、国との関係を維持・発展させ、よきパートナーとして協調しながらお互いの発展を目指すという基本を忘れてはならない。企業がそうしたWin—Winの関係構築に挑戦する上で、本報告書が多少なりとも示唆を与えられるならば幸いである。末尾ながら本研究を御指導頂いた関志雄委員長はじめ、終始積極的に議論に加わって頂いた委員各位に御礼申し上げる次第である。 なお、後半部に、外部講師の講演録と、今年2月に開催したシンポジウムの概要を掲載した。 |
名簿(敬称略、五十音順) |
委員長 | 関 志雄 | 独立行政法人 経済産業研究所 上席研究員 | |||
委員 | 井出 亜夫 | 慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 教授 | |||
木村 福成 | 慶應義塾大学 経済学部 教授 | ||||
後藤 康浩 | 日本経済新聞社 編集委員 兼 論説委員 | ||||
嶋原 信治 | 日中投資促進機構 事務局長 | ||||
金 堅敏 | (株)富士通総研 経済研究所 主任研究員 | ||||
服部 健治 | 愛知大学 現代中国学部 教授 | ||||
原田 泰 | 内閣府 経済社会総合研究所 総括政策研究官 | ||||
古屋 明 | 伊藤忠ビジネス戦略研究所 所長代行 兼 中国市場主席研究員 |
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藪内 正樹 | 日本貿易振興機構(JETRO) 企画部 事業推進室 事業推進主幹(北アジア) |
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事務局 | 木村 耕太郎 | (財)地球産業文化研究所 | 専務理事 | ||
竹林 忠夫 | 同 | 企画研究部長 | |||
松本 邦夫 | 同 | 同部 次長 |
目次(執筆者) |
【第Ⅰ部 本編】 | |
Ⅰ.ビジネスチャンスとしての中国をどうみるか |
1. 中国の台頭の恩恵を受ける日本 (関 志雄) | ||
2. 日本の製造業の対中投資の変化と最適化への模索 (後藤康浩) | ||
3. 対中ビジネスにおける経営の現地化とガバナンスの仕組み (金 堅敏) | ||
4. WTO加盟後2年間の動向と日中経済関係 (服部健治) | ||
5. 北東アジアにおける国際貿易パターンとFTA締結の意義 (木村福成) |
Ⅱ.中国リスクへの対応 |
1. CHINA RISKとその対応について (古屋 明) | ||
2. 中国ビジネスのリスク事例 (薮内正樹) | ||
3. WTO加盟後の日本企業の動向 (嶋原信治) |
【第Ⅱ部 講演要旨編】 | ||
1. 日本企業にとっての中国進出のリスクとチャンス (株)アクアビジネスコンサルティング 代表取締役社長 高田勝巳氏
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2. 中国における企業経営のチャンスとリスク マブチモーター(株) 顧問 西村祥二氏
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3. 中国におけるコマツの建機ビジネスのチャンスとリスク コマツ 執行役員 建機マーケティング本部 海外営業本部長 茅田泰三氏
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4. 中国における国内販売の問題点と対応策 伊藤忠ケミカルフロンティア(株) 経営企画室 中国戦略チーム長 池田博臣氏
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【付録】 第14回GISPRIシンポジウム「新たな日中経済関係をどう構築するか」開催報告 |