UNFCCC第16回補助機関会合における
IPCC TARに関する議論
2002年6月5日〜14日、ドイツのボンにてUNFCCC第16回補助機関会合が開催され、2001年に完成したIPCCの第三次評価報告書(TAR)について今後この文献をどうSBSTAとして活用していくかについての協議が行われた。
TARの活用方法については、今回の補助機関会合の中でも非常に合意に達するのが困難だった議題の一つである。初日の全体会合では2002年4月にIPCC議長に就任したパチャウリ博士より、TARの利用方法に関するワークショップ(2002年4月4日〜6日。ボン)、及び第四次評価報告書の作成作業に関する報告があった。ワークショップでは、TARに含まれている情報を十分に活用した、SBSTAが扱うに相応しいトピックとは何かが模索された。中でも科学的不確実性の低減、研究と観測への資金援助、影響と適応のコスト分析、技術開発への投資、措置の持続可能な発展への効果等が、SBSTAが扱うに相応しいトピックとして挙げられた。(ワークショップの報告書は、途上国の意見を正しく反映していないという指摘もある。)第四次評価報告書は、2003年から作業を始め、2007年3月頃までにWG
Iの報告書を、同年中旬頃までにWG IIとIIIの報告書を完成させること、また、統合報告書を作成する場合には、2007年末を予定していることを発表した。報告書の様式としては、今までの評価報告書よりも短く、焦点も絞り、更に地域的影響や適応について新しく分かった情報も取り入れることとした。その他、地学的炭素貯蔵技術や気候変動と水に関する報告書等の作成も進められていることが報告された。各国からは、TARをもっと広い層に知らしめること、特に途上国からの専門家の参加を増やすこと、科学的な不確実性(危険な人為的干渉レベル)の更なる研究といったことの重要性と必要性を主張した意見が多かった。特にノルウェイは、2012年以降の排出目標を更に厳しくする検討を始めることを主張し、中国やサウジアラビアは、歴史的累積排出量を含む先進国の責任や平等性に関するTARの研究を不十分であると指摘した。
全体では以上のような意見交換が行われたが、その議論を更に深め、TARをSBSTAとしてどう取り扱っていくのかについて結論案をまとめるためにコンタクト・グループが設置された。しかし途上国と先進国による話し合いは非常に難航し、深夜まで会合が延々と続けられた。主な論点としては、途上国の中でも大国であり、GHG排出量も今度かなりの速さで増加していくであろう中国、インド、ブラジルといった国が2012年以降に先進国のような数値規制を負うことに対し否定的であるため、G77+Chinaという立場から、「緩和」という言葉が結論案や決議案入ることに反抗したことが一つ挙げられる。結局その言葉が記載されることになると、今度は「影響」に関する更なる研究や「適応」の重要性等についても文書の中で強調するように主張した。また中国等が「不確実性」に着目するのに対し、EUはもっと明らかになったこと(robust
findings)についても着目するように呼び掛けた点も興味深い。更にロシアは、前々から議題に挙げている気候変動システムに影響を与えうるGHG濃度についての更なる研究の必要性について結論案に記載することを主張した。結局結論案は、1)TARを常にアジェンダに上る議題の参考資料として活用すること、2)TARで検討された研究と観測、気候変動の影響と適応、脆弱性、緩和等についてSBSTAでも検討すること、3)SBSTA17にて事務局が専門家に意見交換の場を提供すること、及び、Q&Aイベントを開催すること、4)各締約国は8月20日までに研究の優先順位に関する意見を提出し、2003年1月31日までに結論案等についての意見を提出すること、そして、5)COP9での決議案採択を目標にSBSTA18から更に協議を進めていくことで合意された(FCCC/SBSTA/2002/CRP.3/Rev.1)。
殆どの国の意見を取り入れ内容が大分薄まってしまったこの結論案は、最終日に全体会合にて採択された。しかし、サウジアラビアは自分達の意見がコンタクト・グループの議長に軽視されたとして交渉プロセスの不公平性に言及し、また、ニュージーランドは結論案の弱さを悔いると発言をしたこと等、各国の思いはそれぞれであり、今後第2約束期間を含む長期目標に関する話し合いは更に難しいものになっていくことが予想される。
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