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2002年 2号

SYMPOSIUM

地球温暖化を緩和する方策に関するシンポジウム
〜IPCC第三次評価報告書(WG3)を受けて〜
議事概要


 平成14年3月5日(火)、富国生命ビル28階会議室において、経済産業省、NEDOの後援を受け、標記シンポジウムを開催致しました。
 IPCCは、1990年に第一次評価報告書を、1995年に第二次評価報告書を作成しており、昨年4月に第三次評価報告書(WG1〜3)を、昨年9月に第三次評価報告書の統合報告書をIPCC総会において採択しました。この第三次評価報告書執筆にあたって、日本からも当日講演頂いた先生方をはじめとする研究者の方々が執筆・査読プロセスに携わり、経済産業省他の政府レビュー、専門家レビューも含め、日本としての国際的貢献を行って参りました。
 温暖化防止への取組みについては、昨年11月のCOP7において、京都議定書上の主な論点は合意に達し、各国は目標達成に向けた具体的対策の検討を開始しており、「地球温暖化をいかに緩和するか」が重要な課題となっております。本シンポジウムでは、第三次評価報告書において緩和策を検討したWG3を取り上げ、実際に執筆・査読された先生方から、報告書の解説、今後の温暖化緩和策検討におけるポイントなどについてご講演を頂きました。



1.(基調講演)“地球温暖化問題においてIPCCの果たす役割”

[東京大学 工学系研究科 教授 石谷 久]

第二次評価報告書〜第三次評価報告書に渡り、執筆・査読に携わられた経験を元に、報告書の構成、今後の課題について講演をされた。

“東京大学 石谷 久 教授”
最近は地域性が問題となっており、ローカルな文献も取り上げられるようになってきている。
適応・緩和策については、第二次評価報告書は技術論文的なものであったが、第三次評価報告書では社会経済的な評価が増えた。
執筆作業は大変な労力を要するので、「専業支援グループ」が必要である。
(第三次評価報告書ではGISPRIのサポートが機能しており、そのような形が望ましい。)


2.“IPCC第三次評価報告書の概要”

[GISPRI研究員 田中 加奈子]

IPCCの組織概要、執筆体制、第三次評価報告書(統合報告書を含む)の概要について、説明を実施。


3.“長期的な温暖化対策シナリオと社会経済の発展”

[国立環境研究所 社会環境研究システム 領域長 森田 恒幸]

第三次評価報告書で用いた“シナリオ”について、特別報告書も含め、説明をされた。
シナリオ作成は世界で9チームが行い、その内3つは日本(森田、森、山地)が占めている。
気候変化を緩和するには、6つのシナリオの内、A1T、B1、B2の3つが現実的な選択である。(しかしながら、これらのシナリオについて具体的な共通の認識を共有するのは難しい。)
持続可能な発展と気候変動問題は大きく係わっているので、温暖化問題の議論だけではダメで、様々な対策の組合せが必要である。


4.“温暖化緩和技術の評価”

[東京農工大学大学院 教授 柏木 孝夫]

IPCCには第2次評価報告書より参加しているが、最近は政治的に利用されているように感じる。第三次評価報告書においては、議長が米国、3つのWG議長が英国、米国、オランダとなり、地域バランスが崩れている。
日本では、温暖化問題は3つのE(環境、経済、エネルギー)といった切り口で論じられるが、最近のIPCCでは、DES(Development, Equity, Sustainability)を重視している。
第3章では、既存の技術(エネルギー効率の向上、低C燃料、再生可能エネルギー、炭素固定・貯留)により、2010、2020年におけるGHG排出量を2000年レベルに安定化できることを示した。


5.“温暖化緩和における吸収源の評価”

[日本林業技術協会 技術指導役 藤森 隆郎]

地球上の森林の炭素収支を見ると、熱帯林が16.5(GtC/年)放出しており、温帯林、北方林が吸収しているにも拘わらず、全体では、9.1(GtC/年)の放出となっている。
日本にとって新規植林は、戦後植林を進めてきたこともあり、他の国に比べて不利である。また、高温・多湿といった気候は下刈りの作業を必要とするため、コスト的にも不利である。(途上国の20倍、先進国の8倍程度)
途上国におけるプロジェクトでは、土地所有制度が問題となってくるであろう。
吸収源のモリタリングの透明性を上げるのは大変な作業である。


6.“京都議定書批准と京都メカニズムの活用“

[慶應義塾大学 経済学部 教授 山口 光恒]

第6章は、Environmental Effectiveness, Economic efficiency, Equity, Political feasibilityという4つのクライテリアが決まっていたが、万国共通の物差しがあるEconomic efficiencyにばかり収斂した。
日本では、経団連の自主行動計画への風当たりが強いが、IPCCでは、政府のレビューもある政府−企業間の自主協定事例として取り上げられている。
環境税、排出量取引の議論については、教科書通りの記述に留まっている。
今後、京都議定書を各国が批准していけば、自由貿易と環境という問題がクローズアップされてくる。
日本が京都議定書を批准するのであれば、負担を被ることに対する国民の合意が必要である。また、京都メカニズムの利用を1.8%に制限するべきではない。

7.“温暖化緩和の部門別コストと副次便益”

[東京理科大学 理工学部 教授 森 俊介]

緩和策の部門別影響評価の研究例は少なく、多くは先進国に関するものであった。
気候政策影響は、石炭産業部門に大きく、石油に小さく、ガスに中間であることがモデル研究で示されている。
健康影響を金銭表示し評価する試みは、欧米、南米、中国等で適用例が増えつつある。
SRESのメッセージとしては、「地球の将来には多様な世界観があり得る」ということである。課題としては、「地域性、不確実下のリスク回避政策、温暖化対策の派生的便益評価等」である。
アジア地域を15に分割した“ELSAモデル”を構築している。

(文責:定森 一郎)



“GISPRI 田中加奈子 研究員”

(参考:IPCC第三次評価報告書入手方法)
1.電子媒体

 IPCCのホームページよりダウンロードできます。
 http://www.ipcc.ch/
2.冊子
 イギリスのCambridge University Pressが出版をしており、下記サイト(WG3の場合)にて注文可能です。(WG3:34.95英ポンド)
http://uk.cambridge.org/order/WebBook.asp?ISBN=0521015022