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2004年 4号

Conference
GHGプロトコル プロジェクトモジュール
RMT会議 参加報告
平成16年5月12日〜14日、ロンドンにて開催されたGHGプロトコル プロジェクトモジュール(GHG Protocol Project Quantification Standard)のRMT(Revision Management Team)会議に参加する機会を得た。以下に、GHGプロトコルの概要と当ミーディングでの検討事項や議論の内容などを簡単に紹介する。


GHGプロトコルは、GHG(温室効果ガス:Greenhouse Gas)の排出量及び排出削減量を算定する世界標準のガイドラインとして策定が進められているものである。WRI(World Research Institute)とWBCSD (World Business Council for Sustainable Development)が主催し、世界の主要企業や、欧米を中心とした政府関係者、研究機関、有力NGOなど多様な関係者が策定に関わっている。
GHGプロトコルは二部構成となっており、このプロジェクトモジュールと、コーポレートモジュール(Corporate Standard)から成る。コーポレートモジュールは、企業など事業者の組織としての排出量の算定の基準である。既に完成し、今年4月には改訂版が公表された(弊所サイトにて仮訳を公開予定)。一方、プロジェクトモジュールは、排出削減のプロジェクトにおいてどれほど排出削減がなされたかを算定する基準である。今年12月の完成を目指し策定中であり、今回のRMTミーティングも今年1月に行われた意見聴取の結果などをもとに内容をつめていくものであった(昨年9月に出されたドラフトの修正)。

このプロジェクトモジュールは、上述のように排出削減プロジェクトでの排出削減量を算定するためのものである。この場合の排出削減量は同じ事業者の排出量の単純な経年比較で出すことはできない。プロジェクトがなかった場合の排出量の推移(ベースライン)と、プロジェクトが実施された場合の排出量の推移の比較で出す必要がある。従って、ベースラインはどのようなケース(シナリオ)がありうるのか、そしてその際の排出量の推移はどう予測されるのか、プロジェクトによってどのような排出源の、どれ程の排出量が置き換え(削減)られそうなのか、といったことをステップを踏んで適切に把握していくことが必要となる。

RMTミーティングは3日間で、毎日10人前後※の参加があった。事務局のJanet Ranganathan氏(WRI)が1日目と3日目の、Suzie Greenhalgh氏(WRI)が2日目のコーディネイトを行った。(会場:シェルセンター13F)
※参加者一覧は、末尾参照
第1日目の議題
この基準の目的や構成、二次効果について
第2日目の議題 ベースラインシナリオの選定について
第3日目の議題 GHG削減量の算定、モニタリングについて ほか

(1)第1日目のポイント
この基準を適用する対象に、排出削減プロジェクトがオフセットとして行われる場合、つまり京都メカニズムのCDM事業のように排出削減クレジットが発行されるなどしてどこか別の場所での排出削減活動の代替として実施される場合も含めるか、という点が議論された。
この基準は色々なニーズに柔軟に応える必要があり含めるべきだが、オフセットとしてのプロジェクトは、そのプロジェクトが「追加的:additionally」に(例えば、普通にビジネスとして行われる事業などよりも)排出削減できることが必要である、ということで合意された。
この基準は大きく3つの部分から成る(1.一般枠組基準と一般ガイダンス、2.特別ガイダンス〔送電網内の電力プロジェクト、土地利用・土地利用変化・森林プロジェクト〕、3.タイポロジー(プロジェクトの分類)。そのうち、一般枠組基準は、一般ガイダンスや特別ガイダンスの基礎となるものであってあまり詳細・厳格に決め込み過ぎるべきではないことが確認された。
ベースラインを選ぶ際やプロジェクトにおいて二次効果※が生じうることを意識すべきことが確認された。
  ※二次効果:あるプロジェクトの実施にあたり、意図しない形で発生或いは削減されるGHG:例えば、火力発電に替わって野焼きされていた籾殻を集めて発電するプロジェクトで、籾殻を集める車の燃料費が増える など

(2)第2日目のポイント
ベースラインの選定という今回のミーティングの山場であった。
ベースラインの選定の論点と検討事項について紹介する前に、その前提となっているこの基準のドラフトに示されているGHG削減量を定量化するステップについて簡単に紹介する。
STEP.1 プロジェクトとその一次効果(意図した効果)の明示
STEP.2 一次効果の的確性のチェック
(実施プロジェクトが何かの制度に基づいて実施される場合のみ)
STEP.3 一次効果の法律(規制)に対する追加性のチェック
(単に遵法のためのプロジェクトであれば規制に従っただけなので追加性はないことに)
STEP.4 二次効果の予備的評価の実施
(二次効果の大きさ次第では、むしろ全体として排出増となってしまうこともあり、早めにプロジェクトとして成り立つか判断することがコスト負担の面からも大切である)
STEP.5 ベースラインシナリオの選択
STEP.6 二次効果の関連性の同定・評価
STEP.7 プロジェクト削減量の算定と、削減量の帰属に基づく分類
STEP.8 モニタリング計画の策定

このうちのSTEP.5 に関する議論である。

一次効果(排出削減量)を正確に求めるためには、プロジェクトと比較の対象となるベースラインは信頼性の高いものが選ばれなくてはならない。
ただ、ベースラインの選定プロセスをあまりに厳格に決めすぎて、プロジェクト開発者の選択の幅を狭めるようなものであってはならないとの意見が出された。
また、ベースライン候補の選定にあたっては、考えられる全候補を上げてから検討すべきとの意見もあったが、関係の薄いものや必要性のないものを除いて記載すればよいことと、service equivalenceの考え方※に沿って候補を選ぶべきことが確認された。
  ※ service equivalenceの考え方:プロジェクトによる排出削減量を算定する際には、プロジェクトにより置き換えられた仕事量とベースラインでの仕事量とを同じにしたうえで比較しないと、削減量を正確に算定できない点に注意が必要であるということ。

なお、ベースラインを選ぶ際には、標準的な手法を用いることでデータ収集や検証の費用を節約できる上にベースラインの選択の透明性や一貫性を高めることができるため、以下の3つの標準的な手法の利用がこの基準内で紹介されている。
プロジェクト特有のベースライン手続きについて
GHGパフォーマンス標準について
設備改修等(retrofit)に関するベースライン手続きについて

については、まずバリアテストをまず実施することになる。これは、候補となっているベースラインシナリオの通りとなるのが妨げられるようなバリアがあるかどうかを評価するものである。バリアテストは、ベースライン選定手続きというよりベースラインを正当化するものとして使われることである点についてメンバーの多くが同意した。つまり、ベリファイアーに対し、ある特定のベースラインシナリオを選んだ理由を説明する上で助けとなる枠組だというわけである。
投資ランキングテスト(investment ranking test)は、メンバーから不評で、テストのためのデータ集めが大変である上に、誤った分析を行う恐れがあるのではという指摘も出された。

のGHGパフォーマンス標準とは、ベースライン排出量の代用として利用するパフォーマンス標準を定めるものである。これを使うことで利用者(プロジェクト開発者)は、ベースライン排出量の算定に手間が省けるし、利用者間の統一もとれる。似たような環境(地理的位置、規模、技術など)にある複数のプロジェクトに適用可能な排出係数を設定するものである。
しかし、実運用面での課題もある。例えば、どの程度のデータがあれば十分かという点や、対象範囲をどのように決めるのか(特にエネルギー部門で、ある特定の燃料固有の基準(例.低排出の石炭か多排出の石炭か)を使うべきか、複数燃料の基準(例.石炭、ガス、再生エネルギーの混合)を使うべきかなどである。また、第二効果も、プロジェクトそれぞれの事情で異なるだけにこれをどう決めて入れ込むかは難しい点である。
とりあえず、パフォーマンス基準は、追加性の篩(ふるい)にかけるステップと、パフォーマンス基準の選定するという2つのステップで構成されるべきことが確認された。

の設備補修等に関するベースライン手続きについては、改修に先立つ施設・装置の寿命(end of life)までそのプロジェクトは追加的であるか、という点について議論がなされたが、実際問題として寿命を定義するのは難しい。定期点検やオーバーホールで寿命が延びる場合もある。施設・設備の寿命とは何かをきっちりと決めるルールを作るのは無理そうだという感じであった。
また、設備改修によってキャパシティが増えてしまう場合はどう扱うべきかについても議論された。これはservice equivalence の考え方(上記参照)に関するものであり、設備改修の前後にservice equivalenceがあるかどうかの問題であると思われる。

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他、ベースラインシナリオの寿命については、原則5年を提案している。しかし、シナリオ策定後の技術の浸透などを反映すべきであるとする指摘や、プロジェクト開発者が適切と思う長さでいいのではないか、といった意見があった。そこで、決めた期間の間はベースラインシナリオをそのまま維持すること(前提や法律が変わっただけのことでシナリオを変える必要はない)が提案されている。

(3)3日目のポイント
GHG削減量の算定、GHGモニタリングプランの策定と、レポーティングが主なポイントであった。
削減量の算定では、直接効果と間接効果をどうカウントするかが問題となる。間接効果は、GHG削減プロジェクト者と、GHG排出削減者が異なる場合である(例えば、高効率のコジェネレーションを導入し購入電力を減らした場合、実際に排出が減るのは発電所。コジェネレーションの導入単体でみれば排出増だが、間接効果の発電所からの排出減と併せた場合、全体として排出減となるようなケース)。
直接/間接の定義は、誰が管理できるか、という点より、だれに帰属するか、という意味で再定義されるべきであるということになった。
モニタリングプランは、実際の排出削減を計測する段階の話である。まだ、ドラフトにはこの部分は示されていないが、モニタリングプランは、モニタリング手続き(monitoring procedure)と呼ぶべきであること、そして何をどのようにモニタリングすべきかを文書化することが提案された。
レポーティングについては、以下の内容が追加される見込みである。
  i) グッドプラクティスとして、プロジェクト開発者はGHGプロトコルの求めるところに従い文書化しなければならない。
  ii) プロジェクト開発者は求めに応じ、信用するに足るとユーザーが判断するに足る合理的なレベルの情報を提供しなければならない

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雑感

2005年1月からのEU排出権取引の開始への準備やCDMの方法論の積み上がりなど排出量や排出削減量算定のルール作りに関連する周辺状況の動きはめまぐるしい。また同様の基準策定の動きとしてISO14064の策定も急速に進められている。このような中、世界標準を目指すGHGプロトコル策定の動きも加速されている。
プロジェクトによる排出削減量の算定については、CDMがあまりにも複雑かつ厳格なルールにて運用されているだけに、プロジェクト投資意欲を持つ多くの関係者にとっては、まずわかりやすく、柔軟性があって使いやすいことを望んでいるのではないかと感じる。もし、GHGプロトコルがGHG算定の基準として世界の主導権を握るとすれば、それは、様々な事業形態の多様性を考慮し事業者がもっとも適切と思うアプローチを選択しうる柔軟性を備える場合ではないかと感じる。また、CDMとの関係(どこがCDMのプロセスに使えるのか、どの点が違うのか)がもっと具体的に示されれば(現在も別紙1に示されてはいるが)、CDM関係者にとっても大きな手助けとなるものと考える。
とにかく、多様なプロジェクト開発者に、GHG削減量算定の考え方とその具体的指針を明確に提示する意味で、この基準の意味は大変大きなものであり、なるべく多くの実例や知見を結集し、誰にでもわかりやすく、かつ柔軟で使いやすい形にまとめられることを祈念するものである。


【ご参考】(RMT参加メンバー一覧 / 氏名:参加母体)
Mahua Acharya, WBCSD
Tom Baumann, Natural Resources Canada
Laurent Corbier, WBCSD
Jeff Fiedler, NRDC
Gloria Godinez, WBCSD
Suzie Greenhalgh, WRI
Yasushi Heida, TEPCO
Jed Jones, KPMG
Arthur Lee, ChevronTexaco
Maurice Le Franc, US EPA
Mike McMahon, BP
Janet Ranganathan, WRI
Jayant Sathaye, LBNL
Kenichi Shinoda, GISPRI
Tim Stileman, IPIECA (observer)

【今後の予定】
6月 特別ガイダンスの検討(2つのサブワーキング)開始(〜12月半ば)
〔送電網内の電力プロジェクト、土地利用・土地利用変化・森林プロジェクト〕
9月末 次回RMTミーティング
12月末 一般枠組基準・一般ガイダンスの完成、一般からのレビュー受け付け
(H17年3月〜 もし可能なら、特別ガイダンスも併せて)

(文責:地球環境対策部 篠田健一)