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パネルディスカッション−2「ASEAN地域におけるビジネス展開の実態と課題」 |
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モデレータ 小林 英夫 氏(早稲田大学大学院 アジア太平洋研究科 教授/日本自動車部品産業研究所 所長) |
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基本的なスタンスとしましては、ディスカッション−1においてはかなり大きいレベルにおける、サプライチェーンおよびFTAを含めた、政策まで含めた、非常に総論的なことがらを展開していただきました。ディスカッション−2におきましては、産業を自動車、或いは電機といった産業に限定して、サプライチェーン(SC)の具体的な実態がどのように展開されているのかに言及し、成功例、失敗例、あるいはさまざまな問題にまで煮詰めて、パネル−1を引き継いでより具体化していく心づもりで進めたいと考えております。
ASEANを議論するときには、中国を相当意識して議論しなければだめだと思います。つまり、ASEANと中国の連携が非常に強い電機部門と、やや希薄な自動車および自動車部品部門というように産業における違いがある場合に、SCの作り方はどう違ってくるのか。どこを押さえれば隘路を突破することができるのかを意識した議論と討論を続けていきたいと考えております。
サプライチェーンの官民の役割委員会の委員長として、率直にその研究会の中における議論を若干紹介させていただきますと、SC、或いはSCMという場合、それぞれが描いているSCの中身は相当違うのです。或る方は在庫の問題を非常に重視する。ある人はリードタイムを非常に重視する。ある人はプロフィットをいろいろ重視する。産業というよりは人によって、SCのイメージと定義が相当違いました。委員長として、その調整に前半の研究会のほとんどを使ったといっても言い過ぎではありません。
最初、これは私の力不足のなせるわざかと誤解していました。しかし、SCMを作っていくというのは、各産業部門によって相当違い、ある産業の場合にはここを押さえることが重要だ、別の産業の場合には別のところを押さえることが重要なのだということで、その押さえどころが違えば、政策も対応も違ってくるはずなのです。そこに気がつくのにかなり時間がかかりました。
今日は冒頭に二つのことに留意していただきたいと思います。一つは、サプライチェーンという場合、産業によって、もっとブレークダウンすれば企業によって違うのだということ。第2点は、そうしたSCが具体的に展開されていく場合には、当然のことながら国によって相当違うということです。この辺の違いを踏まえたうえで、今日は野口さんから具体的な実態について、JETROのアンケートを中心にお話をしていただき、大橋さんには電機を中心に、やや具体的な姿を展開していただき、その成功・失敗事例をご紹介いただきます。最後に小林さんには、自動車および自動車部品でその実態を展開していただくということで、この三つで進めさせていただきたいと思います。
早速3人のパネラーのかたがたからプレゼンをお願いしたいと思います。順序は、野口、大橋、小林の順序で進めさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
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野口 直良 氏(独立行政法人日本貿易振興機構 海外調査部 アジア大洋州課長) |
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JETROの野口でございます。本日は、私どもで行いましたサプライチェーンマネジメントにかかわる調査、これはアジアで活動されている日系企業のかた、およびインドで活動されている日系企業のかたを中心に行ったアンケート調査に基づく結果を、少しご説明させていただきます。加えまして、その調査結果をもって昨年JETROの職員が各地に飛びまして、皆さんにヒヤリングをさせていただいたのですが、その結果につきまして、中国の部分も一部入れながら、お話をさせていただきたいと思います。
まず、SCMの導入の状況です。在アジア日系製造業実態調査、これは2004年1月に実施した調査の中で、特にSCについて質問項目を設けてあります。SCについては各企業さんによって随分とらえ方が異なっています。サプライチェーンは調達の部分に特化しているのだというお考えのかた、あるいはリードタイムをとにかく短縮するためにやるのだというお考えのかた、本当にさまざまでした。私どもとしては、システムを構築して有機的につないでいるもの、これをサプライチェーンマネジメントと呼んでいますので、これを前提に質問を投げかけた次第です。
回答を頂いた企業は1130社で、全体像として語るには若干危なっかしい数字なのかもしれませんが、一般的な傾向としてのものとご理解ください。
今実際に導入されている企業さんに将来導入予定がある企業を加えても、やっと4割かという程度です。実際にやっていらっしゃるかたは2割に満たないのが、アジアにおけるサプライチェーンマネジメントの実態だと思います。
これは実際にサプライチェーンを導入されたとご回答いただいた企業に伺った内容です。「期待したとおりの効果が出ている」「期待した効果が出ていない」とご回答いただいたものがほぼ拮抗しています。この結果で見ると、意外にリードタイムの短縮という効果が出ていない例が多くなっていました。
これがなぜなのかを考えた場合に、まさに今後進めるFTA、或いはEPAで相手国との間で要求していく部分、あるいは日本の技術協力等々をもって改善させていく部分ではないかと。もしFTA/EPAがサプライチェーンマネジメントと有機的なリンクをしていくのであれば、こういった企業がうまくいっていないと言っているところが何なのかを探るところで、ある程度の提言ができるのではないかと考えております。
スマイルカーブに先ほど頂いた回答結果を落とし込んでみました。
たまたま今回の結果を落としてみると、案外真ん中のところ、利益率が低いところでサプライチェーンマネジメントという概念が使われてきている。ということは、全体最適化、あるいは全体利益最大化がサプライチェーンマネジメントの究極の行き着くところだと思うのですが、アジアにおけるサプライチェーンマネジメントは部分最適にとどまってしまっているというところが、この辺から分かるのではないかと思います。
では、リードタイムもさることながら、コスト競争力をつけるうえで、まず注目しなければいけない点として資材調達があるとした場合、今ASEAN、あるいはインドにいる企業さんが、どこから物を引っ張ってくることに力を入れているか。こうやって見ていきますと、やはり進出国の中で物を調達するがいちばん多く、それに準ずるものがASEAN域内で、意外にも中国からが少ないことが分かります。
いずれにしましても、進出国内での調達等々に今後力を入れる、或いはASEAN域内という概念でくくった場合にも、AFTA等々が進展して、市場がフラットになってきており、SCMも構築しやすい環境ができていると思います。
現地調達を拡大する上でポイントは何かという質問に、これはSCMでもなく、FTAの関係でもないと。根本的に問題になるものは、サプライヤーの質的な向上問題が一等最初に出てきています。いかにサプライヤーを教育していくか、あるいは技術力を高めていくかが、ASEAN、或いはインドにおける、競争力の源泉になっていくという気がします。
問題点としていちばん関心の高いのは部品・原材料の現地調達の難しさですが、その次に来るとすれば、コスト削減と思います。
SCMによるしっかりした管理は、コスト削減に近づける手段の一つです。すべてとは申しませんが、一つであるということをご理解いただくと、調達とか在庫管理という部分的なものではなく、もっと川上から川下に至る部分にSCMを波及させていかなければいけないという発想に繋がっていくと考えております。
今回、自動車産業、家電、IT・エレクトロニクスという三つの業種に集中的に質問をしました。非常に少ない事例の中からのご紹介になってしまいますが、自動車産業の例です。
現状を申しますと、ASEANの国は、通貨危機で外需だけに頼んでやっていると後で痛い目に遭うということを経験しておりますので、国内の消費のほうもサポートしていかなければいけない。そうしているうちに、近年ASEANの消費力は本当にすごい勢いで伸びています。特にその辺が顕著に現れているのが自動車産業かと思うのです。
要は市場のニーズを吸い上げるまでもなく、投入した車種が売れ筋になっていってしまうという現象が、まだまだASEANの中にはある。要は市場にそれだけ数多い車種が入り込んでいないということが一つの側面にあり、その結果、サプライチェーンマネジメントによって、部品在庫の最小化を図ることでコスト圧縮をしていくというところになってきているのではないかと思います。
トヨタ自動車さんの場合で見ますと、「かんばん方式」や「ミルクラン」といわれる代表的な調達の工夫のしかた、あるいは組み立ての工夫のしかたは、ASEANの場合もすでにすべての拠点で導入されているということでした。その意味では、SCの一角はかなりできつつあります。
ただ、日系企業は別として、現地のベンダーは、SCの発想自体が頭の中に入っていないので、啓もうの必要があるところが、SCMを構築するうえでの一つの障害ではないかと感じます。在庫は経営の重荷であるという発想があまり現地側になくて、まだ在庫は資産という考え方のほうが強い。余ったら生産を止めればいいというのが現地側の考え方であったりすると聞きます。
それから、重要な部品はけっこう日本に頼っている部分があって、現地のほうでSCを組むまでもないというところもあるのかと思います。
加えまして、自動車産業の場合は特に国内市場向けのビジネス活動を行っていますので、その意味では戦略がまだ東アジア大の戦略ではないのかもしれません。そこの市場での戦略ということで、クロスボーダーで作っていくという意識の薄さにつながっていっているという気がしております。
ASEANの内部では、AICOスキームやAFTAによるCEPT関税などがもう導入されていますので、今後どんどん普及していくものと考えていますが、自動車産業の実態としては、まだ部分最適化にとどまっているということです。
家電産業の事例です。家電産業は、韓国企業の激しい追い上げを受けているのが日系企業の現状です。相当厳しい競争になっていて、白物家電は毎年10%価格を下げていかないと、もう競争についていけないような状況です。
コスト削減における限界という問題点が企業側から出てきており、ある意味手詰まりの状況だと思います。どうやってブレークスルーしていくのかといったときに、SCMは有効な手段だろうと思います。SCMを導入することによって、しっかりとコストを抑えていく、そして全体最適化につなげていきたいというのが、家電産業にとっては重要なことです。
ただ、家電産業も造っているプロダクツによって、随分とメーカーさんの考え方が違っていました。例えばAV機器メーカーさんですと、部分最適化にはとどまっていますが、すでにサプライチェーンマネジメントを導入されている事例が多くありました。これに対して白物家電の場合は、サプライチェーンの効果そのものに非常に懐疑的であるということが幾つかの企業の中から聞かれました。
エレクトロニクスにつきましては、スピード感が求められています。製品のライフサイクルが非常に短いということがあり、これを短縮することが至上命題であり、かつ、余計な在庫を抱えないことでコスト削減も関ってくる。これがSCに求めている機能の大きいところでした。すでに導入されている例が非常に多くございます。
全体最適化のためにはVMI(Vendor Management Inventory)といった手法も用いて、とにかく足元から調達していくのがIT・エレクトロニクスの例でした。
ASEANの企業は中国からの調達に力を入れていないと言いましたが、結局まだ中国との間では通関上の問題や輸送インフラの問題等々でリードタイムを圧縮することがサプライチェーンをもってしても実現できない。とするならば、ASEANの域内、或いは、自分の進出している国の中で調達というのが、IT・エレクトロニクスの中でのSCの根本的な部分であろうかと思います。
中国ですが、確かに人件費が安いということで、部品調達でもより一層安いものが得られるだろうと皆さん注目をされていると思いますが、中国の課題は、例えばこれはデジタル機器の事例だと思っていただいてけっこうですが、人件費は本当に10%、多くても30%以内とした場合に、残りが部材費で、その部材費のうち4割から5割がやはり輸入品に頼っています。そこのところのハードコア部分を何とか安くする手段をとらなければいけない。ここを現地化していく、現地調達に変えていくということです。
しかし、現地調達のうち大半が外資系メーカーです。その外資系メーカーも、本当の基本になる部品は実は日本から引っ張っています。本当にピュアな意味でのメイド・イン・チャイナ部分どれだけ引き上げていくかということが、実は中国においても今後必要なコスト抑制策と思います。
リードタイムの短縮という意味では、徐々にでも効果は出つつあります。ただし、最終製品で本当にライフサイクルが短いものを中国だけでというのは、日本企業さん曰く、まだ難しい部分がある。したがって、ここはすその産業の育成というところも含めて、もう少し別の角度からの努力も必要だということかと思います。
現状のSCMは、結局セットメーカーのためにあるイメージが強く、セットメーカーの在庫を圧縮するということは、だれかがその分の在庫を抱えているにも等しいわけです。要は部品メーカー泣かせ、ベンダー泣かせのSCMではないかということで、これは中国だけではなく、ASEANでも同じですが、全体最適にはほど遠い状況になっている感じがします。
中国には地の利の面でのメリットがあります。それは日本に近いということが一ついえると思いますが、基本的に中国に進出している日系企業さんの輸出先は日本であり、あるいは先進諸国なわけで、そういった場合に市場のニーズに対して本社サイドのSCMを使うことが可能だという意味で、ASEANに比べると若干なりとも構築しやすいのではないかという印象があります。そうすることで、リードタイム自体を圧縮する効果も出しやすかったのが、中国の例です。
また、中国国内においても、情報通信インフラについてはそれほどサプライチェーン構築のうえでは問題がないというのが、企業さんからのお話です。中国はこれから市場が大きくなっていくわけですから、国内でのニーズの把握をやろうと思うと、実は国土が広すぎる、消費者層が食い違いすぎるということがあって、需要予測は非常に難しいと聞いていますが、インフラがしっかりしてさえいれば、それも徐々に可能になっていくと。ASEANと比べると、中国は後発な分、システムの導入がしやすい面があるのではないかということが、私どもの調査から見られたところです。
簡単ですが、私からの報告は以上です。
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