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ニュースレター
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2006年
3号
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Report | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
多文化共生社会を考える研究委員会報告書 平成17年度 日本自転車振興会補助事業 この度、標題の研究委員会報告書が完成したので、その概要を紹介する。
日本社会における外国人人口比率は、徐々にではあるが、単調な増加傾向を辿ってきた。 1990年に入国管理法が改正されて以降、日系人を中心に外国人 労働者の流入に拍車がかかり、一方、政府も高度の専門性を備えた外国人を積極的に迎え入れる方針を明らかにしている。また、高齢化社会への対応の一環とし てフィリピンとの経済連携協定(EPA)において看護師・介護士を選択的に受入れることを決めている。こうしたことから日本社会における外国人人口とその 比率は引き続き増加・上昇することが見込まれる。 日本社会において異文化接触の機会がさらに増えることによって社会的活力が亢進されると期待される反面、近時、欧州で起こりつつある社会的な摩擦や秩序 の乱れといったネガティブな側面への懸念も残念ながら拭いきれない。 すでに一部の外国人労働者集住地域では、労働者自身のみならず、その家族・子女を巻き込むさまざまな社会的課題が顕在化しつつある。これらの課題の検討 は各方面で行われ、外国人労働者を受入れるための日本社会の法制と社会環境の整備の遅れがその都度指摘されてきており、その解決、事態の改善を促す提案が さまざまな議論の場から発せられてきたが、具体的な進展には至っておらず、むしろ状況の悪化が進んでいるようにも見える。 公正で活力ある社会経済システムを築くうえで、こうした課題の克服・改善に手をこまねいていられる時間的な猶予は殆ど残されておらず、一刻も早い具体的 な取組みが求められているといえるだろう。 こうした危機意識のもと、当研究所では平成16年度より「多文化共生社会を考える」研究委員会を設置、関連各方面の専門家のご参加を頂き、外国人労働者 に関わる多様な事例報告と研究成果の紹介を中心に2年間にわたる議論を通じ、日本社会が外国人を受け入れるうえで、社会環境や制度面での具体的な整備の進 め方を検討して頂いた。 本報告書には、研究委員会にて検討・作成された「日本における外国人の受け入れに関する提言」と、その提言の各項目に関わる、より詳細な報告論文、並び に移民社会の課題が凝縮される英国マイノリティ社会の実態調査報告とで構成されている。また、政府が行った日本国内の外国人労働者の実態調査で得られた諸 データを参考資料として所収した。 外国人労働者問題は単に産業界の労働力問題に止まらず、社会的、文化的な要素も深く関わる総合的な問題である。本問題に関心を持たれる関係各位に本報告 書が有用な示唆を与えることを願うものである。 (報告書「はじめに」より)
本 編 要 約
総説 多文化共生社会を考える
1980年代後半から南米日系人を中心に外国人受入れが加速,現在もなお増加傾向が続く日本社会では,受入れに関わる法制,社会環境ともその整備が著し く遅れている。 外国人労働者の入国時チェックと滞在管理の厳正化、不法就労の徹底的排除、外国人を雇用する企業の雇用に伴う責任の分担、外国人労働者の子女に対する日 本語教育ほか教育機会の確保と保護者の責務の規定化、留学生の受入れの促進措置の採用と奨学金制度の整備,外国人の組織的犯罪の取り締まりの一層の強化な ど今後の法制化が必要な諸項目と、具体的に取り組まれるべき課題が指摘された。 第1章 日本の人口および労働力と関係のある人口予測 2004年に人口のピークを迎えた日本はこれから人口減少の時代に入る.人口減少特に生産年齢人口の減少が激しい日本では,「少子」という言葉でその現 象を表し,何とかして女性に子供を産ませようとする発言が多い. しかし,これから25年間の日本の人口減少は,社会の高齢化に伴って多くの高齢者が死亡するために起こり,ある程度出生率が上がったくらいでは,ピーク 時の年間100万人を超える人口減少を回避することはできない. 日本人口の中で働いていない15歳から19歳までと,65歳から74歳までの人たちに働いてもらうのも一つの確実な解決策である. 一方,産業界では開発途上国から若い労働者を安い賃金で入国させる提案も多くみられる.海外から入った労働者が,そのまま国内に定住し,出国しない現象 は欧米先進国でよく見られる現象だが,入国した海外からの人口が将来日本の人口構造にどのような影響を与えるかは,あまり議論の対象とはならない. この論文では,日本における外国人の受け入れが,日本人口の構造の将来にどのような影響を与えるかを推測してみた. 第2章 外国人労働力受入れに関する通説の誤り―経済問題を軸として― 外国人労働力受入れの根拠としてよく言われるところの通説「少子高齢化による労働力不足への対処」「GNP成長に必要な若年労働力の導入」「人口減少に 伴う国民生活の低下防止」「国際競争力の維持・強化」「高度な技術を有する人材の確保」「途上国に対する経済協力」などは、実態面・論理面・理論面から見 て、どれも誤りである。 同様に、受入れに当たっての受益者負担原則の徹底に対する反論として挙げられる「違法・不当な雇用は中小企業ないし派遣企業であって、大企業の責任ではな い」「外国人雇用税など制度的な賦課は、かえって違法を蔓延させる」「法人税・所得税納付により企業は必要な負担をすでに行なっている」などという主張に も、全く正当性が認められない。 これからの日本の取るべき道は、安易に外国人労働力に依存することなく、国内においては望ましい社会産業構造構築に向けた改革と受益者負担原則の徹底、対外的にはアジア分業体制の構築に向けた積極的な役割を果たすことである。その中で、日本が受け入れるべき/受け入れるべきではない外国人労働力について峻 別し、適正な受入れ環境の整備に当たる必要がある。その場合、公的な制度や法令には限界があることに鑑み、経済界も第三者評価に耐えうるような公正な自主 的ルールを用意することが期待される。 第3章 経済社会に活力をもたらす外国人の力−外国人受け入れ問題に関する日本経団連の考え方− 日本は、本格的な少子・高齢化社会に足を踏み入れようとしているが、その一方で、優秀な人材獲得に向けたグローバルな競争はますます激しさを増してい く。こうした状況変化に対応するため、日本の経済社会を多様性のダイナミズムが活かせるものとし、国民一人ひとりの”付加価値創造力”を高めていく必要が ある。そのプロセスの中で、外国人の持つ力を活かしていきたいというのが日本経団連の考え方である。 日本の人口は既に減少をはじめているが、日本経団連は、その埋め合わせのために、外国人の受け入れを進めていこうとは考えていない。
第5章 職業紹介法制変遷の概観 外国人労働者の雇用に関しては、偽装請負、違法派遣等、労働市場法規制を「潜脱」した形態での雇用が多く見られ、深刻な問題となっている。しかしこの問 題は、外国人労働者に「特有」の問題ではなく、日本人労働者にも共通して生じるものである。したがって、日本における労働市場法制に内在する問題点を解明 し、これに対処せねば、上記問題の根本的解決はありえないのである。 本稿では、このような問題の内、字数の大幅な制限もあって、「職業紹介」に関する法規制にのみに絞り検討を行った。 具体的には、職業紹介法制は、戦前の法規制における、「幅のある『国家独占』」から始まって、戦後当初における、「『国家独占』のもとでの『厳格規 制』」を経て、「規制緩和」期における「脱『国家独占」、脱『厳格規制』」という立場へと変遷していること、いずれの立場においても、法制度の枠組みを 「潜脱」しようとする「事例」を完全に防止することはできないこと、判例法理による処理にも限界があることを指摘した。 その上で、違法事例の場合に、職業紹介法制があるべきだと考える「姿」を、法的にそのまま実現できるような規定を設けるべきである、法制度上の要件全て をクリアする場合であっても、それが故意に偽装されたものである場合には、仮装された形式を剥奪するような規定も必要であると提言した。 第6章 中小企業の技能継承と外国人労働者 わが国において、若者の「製造業離れ」が進み、技能工の確保が困難になっている。そこで、東アジア諸国から若者を受け入れ、技能工を養成する本格的な制 度を確立する必要がある。こうした制度は東アジアにおける製造業のネットワーク分業の構築に貢献する。 第7章 多文化社会と教育−オーストラリアの経験を中心に− 本稿では1980年代以降の日本社会における多文化状況を踏まえ、多文化社会としての日本の今後のあり方を考えるための一助として、1970年代に国策 と して多文化主義を採用したオーストラリアの経験を中心に多文化社会における教育の問題に焦点を当てた。 オーストラリアにおいては明確な基準に基づく移民受け入れと責任ある社会統合政策が、移民の定住化を促進する上で役立っている。ESL教育や成人英語教 育プログラムのような施策の充実は社会的公正を保障することにもつながる。また、各種の行政サービスを享受するに際し、言語障壁を持つ移民当事者とそれら のサービスをつなぐチャンネルとして各種のエスニックな団体が存在し、政府機関からの支援を得て機能している。 他方、1980年代以降の反多文化主義的論争や近年の反移民事件からうかがえるように、多文化主義は多数の支持を得ながらも揺り返しの中にある。多文化 教育は移民の社会参加を促進するためだけのものではなく、文化的多様性に積極的な価値を見出し、互いを尊重する社会の構築を目指す教育だが、オーストラリ アにあってもその実現はいまだ途上である。社会のあり方に対するコンセンサス形成の困難さをここから感じ取らなければいけないだろう。 研究委員会名簿
(敬称略,五十音順)
報告書目次
(文責 研究委員会事務局) |
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