貿易の東アジア域内相互依存が深化するなか、東アジア諸国間の貿易関係は、従来型の垂直的分業関係から水平的分業関係に移行するだけでなく、同一産業内の付加価値や技術集約度の差に基づく「垂直的産業内分業」が進展しつつある。しかし従来の議論は日本、中国、ASEANの経済的相互依存関係の深化を認めつつも、三者間の協力関係については必ずしも十分に議論されていない。
本研究委員会では平成17年度と18年度の2年にわたり、日本とASEAN、日本と中国でなく「日本−中国−ASEAN」の相互関係とダイナミズムの解明に焦点をあて、金型、IT、電子、石油化学、繊維、自動車の産業毎に、日本企業の地域戦略、企業経営の特質、技術移転と技術普及の特徴を明らかにし、アジア域内の経済ダイナミズムに貢献する日本企業の役割と可能性を検討する。
本年度の成果概要
各国の産業と地域市場の関わり、或いは各国の産業と中国の関係についてはいくつかのパターンがあることが分かる。
電子産業の場合は、各国間での製品別棲み分けと生産工程間分業がうまくシンクロナイズしている、もしくはシンクロナイズする可能性が高い事例とみなすことができる。
自動車産業は大きく中国、東南アジア、インドの国・地域に分けることができ、東南アジア地域で部分的な完成車のタイプ別生産分業と部品の相互補完的な貿易が見られるものの、三つの地域間で域内貿易が活発化する可能性は当面低く、それぞれの国内市場の拡大に支えられて独自の発展を続ける可能性が高いと言えよう。
合成繊維や衣類産業では中国の「一人勝ち」現象が起きており、東南アジアの当該産業の輸出低下や日本の繊維産業の規模縮小と結びついている。加えてインドの繊維産業も成長を示しており、二つの繊維大国の優位性は、今後ますます強まるだろう。
ITのソフト開発面では、インドが他のアジア諸国に対し優位に立つことが予想される。しかしインドのIT産業へのビジネスプロセス・アウトソーシングにより日本の金融機関やサービス業が人件費の節約を実現し、競争力を向上させることも考えられるし、中国がインドのITソフト開発力や技術者を取り込むことで自国の電子産業の競争力を高めることも可能である。
以上の整理をもとに地域協力と域内産業協力の可能性を検討すると、第一は個別の産業を越え、地域が直面している共通の問題への積極的な取組みで、制度の設計や機構の整備への協力が重要となる。
第二は地域レベルの人材育成に対する協力の重要性であり、第三は個別企業の域内レベルでの相互利益的、相互補完的な分業の発展を支える枠組みへの協力である。
今後はその可能性を個別の産業や分野ごとに検討し、協力の主体と活動の場が政府、業界団体、或いは個々の企業なのか、また政府と民間の連携はどうするべきかにつき、もっと明確にしていく必要がある。
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篠田 邦彦 |
経済産業省 通商政策局 アジア太平洋地域協力推進室長 |
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佐次清 隆之 |
褐サ代文化研究所 情報企画室室長代理 |
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高山 勇一 |
褐サ代文化研究所 常務取締役 中国研究室長 |
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竹内 順子 |
鞄本総合研究所 研究事業本部 海外事業・戦略クラスター |
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金坂 順一郎 |
(財)地球産業文化研究所 企画研究部長 |
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宮島 良明 |
(財)地球産業文化研究所 企画研究部 客員研究員 |
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第1部
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総論 東アジア域内の産業協力と日本の役割
―研究会の背景と目的―
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末廣 昭
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1〜17
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第1章
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東アジアの域内協力むけて
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篠田邦彦
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19〜28
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第2章
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アジアにおける金型供給の現状と日本の金型産業 |
斉藤栄司 |
29〜38
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第3章
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インドIT産業の台頭と日本の課題 |
小島 眞 |
39〜46
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第4章
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アジアの情報技術人材 |
三上喜貴 |
47〜58
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第6章
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日本の繊維産業をめぐる概況と産業協力 |
松平俊哉 |
67〜80
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第7章
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アジアの自動車産業と産業協力
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高山勇一
佐次清隆之 |
81〜91
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第8章
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東アジアにおける石油化学の産業協力
―その歴史的アプローチ― |
峰 毅
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93〜104
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第9章
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東アジアの通信産業における産業協力
―携帯電話の事例― |
丸川知雄
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105〜112
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第10章
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日本の経済産業技術協力について |
山近英彦 |
113〜124
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第3部 |
まとめと今後の展望
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末廣 昭
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125〜133
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付録
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年表: 日本のアジア・太平洋協力、
東アジア地域協力の動き 1952-2005年
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末廣 昭
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135〜137
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データ整理: 日・米・欧・中、各市場をめぐる
アジア各国の輸出品目の変化
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宮島良明
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139〜186
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